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ブログ・重田 靖男
第1回:「大久保君、ちょっと“笹もと”に寄って行かないか」
2007年3月22日
夕方、報告書の作成に目途をつけてホッとしていると、
部長の川田から声をかけられた。
部長は昼間、しばらく役員室に行くといって席を外していたから、また何か注文をつけられて来たかなと思っていながらも、川田からの誘いは嬉しかった。
「あら、いらっしゃいませ。きょうは、お二人で?」
「ああ、どこか部屋が空いてないかな。大事な話があるんだが」
“笹もと”は比較的気軽な小料理屋だが、あらたまった部屋もいくつかあって、接待にも使える。川田が馴染みなので、大久保はじめ物流部の連中もときどき仲間だけで寄ることもある。おかみとも顔馴染みである。
川田が、「部屋を」と言ったので大久保は少し動揺した。
「異動の話かな?」
川田は、いつもはカウンター席である。
部屋に通されると、川田は席に着く前に上着をとってネクタイを緩める。
「大久保、忙しくなりそうだぞ」
と言いながら、着座を促した。
軽くグラスを合わせると、2人とも一気に空けた。
疲れがすーっと落ちていく。
川田は、早速、本題に入った。
「まだ株主総会前だから、外に洩らしてもらっては困るんだが、松川さんが副社長として、経営企画、購買、生産、物流を担当することになる。どうやら、社長は本腰を入れて、ロジスティクス改革に取り組む気になったらしい」
「海外事業担当の松川専務ですか」
「うん」
川田は、大久保の反応も見ないで、さらに続ける。
「ほら、去年、君と一緒にまとめた提案書な、『サプライチェーン改革を目指して』さ、どうも社長の頭にはあれがあるらしい。あのときの役員会では議論百出で、結局、関連部門とよく調整して改めて提案、そのままうやむやになっちゃったんだが・・・」
「ええ」
「社長が、あの提案書に朱書きで自分の意見を入れたものを、松川さんの副社長内定の話のときに、松川さんに直接手渡したというんだ」
「あ、部長、昼間役員室へ行かれたのは松川専務のところでしたか」
「そう。松川さんが、少し早いけど、いろいろ教えて欲しいと言ってね。
だから、こっちもついでに君のことも・・・、いや、これはいずれまた話そう。松川さんも、副社長内定で、すこぶるご機嫌だったよ」
大久保真一、38歳。京浜大学を卒業後、(株)トーホーに入社、
5年ほど第一線の営業マンを経験している。
いまの川田部長が物流企画課長の時代に、プロジェクトの一員として引っ張られてきた。この記事へのコメント
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筆者紹介
重田 靖男
東京ロジスティクス研究所
1941年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。
資生堂で、物流開発プロジェクト室長、物流部長、マーケティング本部長を歴任。資生堂物流サービス株式会社社長を経て、株式会社東京ロジスティクス研究所を設立。
現在は顧問として、荷主・物流企業をコンサルティングしている。
【委員】
日本ロジスティクスシステム協会企画開発専門委員長
物流技術管理士資格認定委員および講師
日本物流学会会員 -
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