-
ブログ・重田 靖男
第18回:「6時半に『笹もと』で」
2007年3月22日
川田は相変わらず忙しく飛び回っていたが、夕方5時を回る頃に、たまたま部長席にいた川田に大久保が近寄っていくと、川田から声がかかった。
「大久保君、今夜空いてるかい」
「あ、はい」
「久しぶりに、『笹もと』にでも付き合わないか」
「いいですね。実は私も部長に少し聞いて頂きたいこともありまして…」
「難しい話じゃないだろな。じゃ、6時半に。直接行ってくれ」
「わかりました」
銀座の裏通りは、ぼつぼつ明かりが点き始めたとはいえ、未だ明るい。幾つかの退社組が新橋駅の方へと流れていく一方、これからが仕事のホステスたちが、それとわかる服装ですれ違う。店の前の打ち水は、この暑さでもう乾き始めていた。もう、8月も終わりだというのに連日の夏日である。
ご出勤のホステスたちの放つ香水の臭いが、かえって息苦しさを感じさせる。
「あら、大久保ちゃん。どうしたの? 浮かない顔して。お一人なの?」
門をくぐると、女将が相変わらずの笑顔で迎えてくれた。
「え? そんなに浮かない顔してますか。やだなあ」
「お仕事、お忙しいんでしょう? 新任課長さんはみんな同じよ。あっははは」
女将の開けっぴろげな笑い声に、大久保は自分がからかわれているのだと気がついた。
「川田部長は、まだ来てませんか」
「川田さん、みえるの? そう、それじゃ、お部屋の方がいいかしらね」
「でも、川田部長はいつもカウンターだろ。ここで待ってるよ」
「そうね、じゃ、見えてから。とりあえず、おビールね」
『笹もと』は結構忙しそうだった。
大久保は、女将の注いでくれるのを受けながら、あたりを見回した。この記事へのコメント
-
-
-
-
筆者紹介
重田 靖男
東京ロジスティクス研究所
1941年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。
資生堂で、物流開発プロジェクト室長、物流部長、マーケティング本部長を歴任。資生堂物流サービス株式会社社長を経て、株式会社東京ロジスティクス研究所を設立。
現在は顧問として、荷主・物流企業をコンサルティングしている。
【委員】
日本ロジスティクスシステム協会企画開発専門委員長
物流技術管理士資格認定委員および講師
日本物流学会会員 -
「ブログ・重田 靖男」の 月別記事一覧
-
「ブログ・重田 靖男」の新着記事
-
物流メルマガ