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ブログ・野口 誠一
第127回:再起の群像 「生きている喜び」
2007年4月1日
以下はUさんの後日談である。
平成16年4月、NHK教育テレビの「ETV特集」で、1時間半にわたって「生きてこそ人生幸あり」という番組が放送された。
内容は「経営破綻、絶望、自殺未遂…生と死の淵をさまよった男たちの物語」というもので、八起会の会員3人の人生航路をたどるドキュメンタリー番組であった。
NHKからこの企画が持ち込まれたとき、正直なところ私は迷った。いかに我が会員とはいえ、嫌なことを思い出させるのではあるまいか、と恐れたからである。
しかし、3人とも「私たちの経験が、いま苦境にある人たちの励ましになるなら」と、快く引き受けてくれた。その3人のうち1人がUさんである。
以下はUさんが出演後、わが会報に寄せてくれた一文である。
「今回の取材で、私はなつかしい場所と辛い場所の2つに立った。前者はふるさと長崎の母の墓前である。母は平成13年、100歳で亡くなった。墓は千々石湾の海原を見下ろす小高い山の中腹にある。野も山も海も、小川のせせらぎさえも昔のままである。
名状しがたいなつかしさが込み上げてくる。20分ほど坂道を登り、母の墓前に額(ぬか)づく。瞼を閉じると、在りし日の母の姿が走馬燈のようにめぐっては過ぎていく。カメラがまわっているのに、私は涙を止めることができなかった。来て良かった…心からそう思った。
もう1つの場所は、かつて倒産した会社の跡と、自殺未遂に終わった私鉄の踏切である。辛い、苦い、思い出したくもない場所である。
しかし、私は容赦なくカメラがまわるなかで、その場に立った。
私の『生きていてよかった』という体験が、すこしでも苦境にあえぐ方々に勇気を与えられるならば…その思いで立った。それがどれほどの役に立ったかはわからないが…」この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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