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ブログ・野口 誠一
第135回:再起の群像 逃げなかった男
2007年6月28日
さて、倒産後のKさんはどうなったか。その後日談である。
オレは逃げない…そう心に誓い、彼はその日の債権者会議にアタマを丸めて臨んだ。そして、絶対に夜逃げしないこと、丸裸になる覚悟もできていること、誠心誠意、事後処理に当たることの3点を意思表示したうえで、資産表を呈示した。
会議は「再建は不可能、清算型の私的整理、それも時間のかからない任意整理」という方向で決着した。再起をめざす者にとっては願ってもない解決方法である。彼の誠意は通じたのである。
そこでさっそく残務処理に着手。各営業所から本社に集中させた商品(宝石)をすべて債権者に配分、その額は債権額の25%に相当した。これが第1段。第2弾は本社社屋と土地の処分である。これも入札方式ですべて売却、その額9000万円もすべて債権者に配分した。これは債権者の23%に相当。ここで債権者は残り52%の債権をすべて放棄してくれた。この間、わずかに1年足らず。任意整理とはいえ、異例のスピードと上々の仕上げであった。
こうして1文なしになったKさんはその後、複合倒産を深く反省するとともに、ひそかに再起を心に誓った。奥さんの持っていた宝石を売って食いつなぎながら、彼が最初に起こした行動は、なんと昼は宝石学校へ、夜は簿記学校へ通うことだった。
いかに失敗したとはいえ、18年間も宝石に携わってきたプロが、もう一度、1から基本をやりなおそうというのは、誰にでもできることではない。しかも一方では、苦手の計数に強くなろうと夜間の簿記学校にも通う。いずれも50の手習いである。それほどKさんの再起への意志は固かったのである。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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