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ブログ・野口 誠一
第142回:心を晴らした一言
2007年8月21日
金と影法師は、追えば追うほど逃げていく。
その後もNさんは社歌の売り込み、マルチ商品販売、バッタ屋と、職を変えながらも懸命に働くが、残念ながら、それは社会の底辺をのたうち回ったにすぎなかった。
そして自信喪失と無気力が同時に襲ってきた。
2か月、3か月と無為に流れていく。働かなければ仕送りどころか、自分の生活さえ維持できないと知りつつも、体と心が動かない。
その間、たった2万6千円の部屋代さえも滞っていく。
大家の催促がうるさいので、朝早くアパートを出て深夜に帰ってくる。
一日中、公園や駅前広場をうろつき、ゴミ箱をあさっては他人の食べ残しで露命をつなぐ。
そんなホームレス同然の暮らしが数か月続いたある日、Nさんは電柱に貼られた「警備員募集」の広告を見て心を動かされた。
ガードマンなら苦手なセールスも、煩わしい取引もないはずだ、と直感したのである。
Nさんは早速応募し、採用された。これが図に当たった。
タコ部屋を解放されて以来、Nさんははじめて持続可能な仕事に就いたのである。
Nさんは黙々とガードマンの仕事をこなしていった。そんなある朝、夜勤を終えて帰ろうとするところへ、現場担当者から「ご苦労さん。また今夜も頼みますよ」と声をかけられた。
その瞬間、Nさんの体をなんとも言いようのない感動が走った。それは、自分のような者でも人さまの役に立っている、世の中の役に立っているという、その感動だった。
夜逃げして以来、はじめて聞く言葉、はじめて味わう感動だった。
落ちるところまで落ちた人間にとって、自分が何かの役に立っていると思えるほどうれしいことはない。その日を境にして、Nさんのなかで何かがはじけた。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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