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ブログ・野口 誠一
第157回:資産押さえられ逃亡
2008年2月22日
地価の下落によって土地本位制が崩壊し、土地が担保能力を失うにつれ、Fさんの肩に過大投資のツケが重くのしかかっていく。
そこへ、銀行が貸し渋りから貸しはがしに転じ、彼は自分の定期預金や積み立て預金など、すべてを押さえられてしまった。
この、自分のカネすらも使えなくなったことが、結局は倒産に直結していく。いわば、銀行によって潰されたようなものである。
倒産直前の1、2か月、彼は資金繰りの苦しさから眠れぬ夜が続き、酒に頼り睡眠薬に頼り、その量も日に日に増えていった。
そのうち視界にモヤがかかるようになり、急速に視力が衰えるに及んで、ついにハラをくくった。が、弁護士に相談したところ、「身を隠したほうがいい」と言われてショック。奥さんや娘夫婦には「会社は私たちが整理するからお父さんは逃げて」と言われて、これまたショック。寄ってたかって疫病神扱いである。
が、腹を立てる気力もなく、彼はすべてをあきらめた。
平成六年、彼は奥さんと離婚し、死出の旅に出た。何度か崖の上に立った。何度か木の枝にロープをかけた。が、そのたびに、こんな形で事業人生を終わってもいいのか、敗北者のまま死んでもいいのか、という声が聞こえてきて死にきれない。
この死の彷徨に疲れ果てたところへ、両眼がさらに悪化し、ほとんど失明状態になってしまった。わずかに持って出たカネも底を突いた。
どうにもならなくなった彼は、仙台にいる学生時代の友人を頼った。友人は廃人同様の彼を見て驚き、すぐさま病院へ入れ、さっそく両眼の手術が行われた。
10日後、包帯をとった彼の目に、まばゆいばかりの外光が一気にとび込んできた。視力が甦ったのである。が、その光にまだ希望はない。
彼がその希望の光を求めて八起会を訪れたのはそんなときである。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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