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射界
2019年5月20日号 射界
2019年6月3日
かつてない将棋ブーム。高校生になった藤井聡太7段の活躍が脚光を浴びる背景が後押しする。将棋の世界は多彩で、ユニークな棋士を輩出して世間を賑わせたが、その一人に木見金治郎名人がいる。彼は「本だけでは将棋は勝てない」を信条に、常に実戦で巧みな戦術を繰り広げて地位を保った。
▲確かに、将棋の基本は定跡(碁の場合は定石)の学習に始まる。先輩棋士が残した戦いの手順を解説した本から学ぶことだが、それにとらわれ過ぎてはダメとも諭す。基本定跡をマスターしたうえで、盤上の実戦で、どう運用するかが勝負を左右するとも言う。初めは一手ずつ丁寧に教え込まれるが、教わる側には慣れ過ぎて陥穽にはまり込む油断と危険が潜む。
▲この大事な過程で、基礎を固めないで応用に先走っても才能は伸びないと木見名人は指摘する。伸びる可能性を秘めた棋士は本を開いて復習し、基本を見返して実戦での応用を学習する。それでも分からないときは、先輩や師匠に教えを乞う。ここで学びたいのは、どんな仕事でも基礎をしっかり学び、そのうえで実務に磨きをかける努力が必要という点だ。
▲彫刻「考える人」の作者として知られるロダン。世間が彼を〝天才〟と崇める声に反発し「天才? そんなものはいない。ただ勉強あるのみだ。不断に計画しているだけさ」と謙遜する。フランスの思想家モンテーニュも「自分が僅かなことしか知らないと理解するためには、多くのことを知る必要がある」と学識を広めた。どこか藤井7段に共通する気がする。
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