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ブログ・野口 誠一
第162回:35億円の貸しはがし
2008年3月28日
ハンコを捺すだけで預金残高が億単位で増えていく。となれば、Hさんの金銭感覚が麻痺するのは時間の問題だった。
やがて社員、銀行員、取り巻き連を引き連れての豪遊が始まっていく。ただの豪遊ではない。億単位の金を散じようというのだから凄まじい。
ハンコを捺すだけの仕事だから暇はいくらでもある。連日連夜、自宅に帰ることも忘れ、ひたすら遊びまくる。そんなただれた生活がバブルの数年間続いた。
そしてバブルがはじけた。やがて不動産の流動性がピタリと止まり、銀行は貸し渋りから貸しはがしに転じていく。そのとき、Hさんのハンコが積み上げた銀行借り入れは35億円に達していた。
担当行員が青い顔をして貸しはがしにくる。夜討ち朝駆けである。支店長が青竹で机をバンバン叩きながら、「バカヤローッ、早く回収してこい」なのだから無理もない。が、Hさんとしてもない袖は振れない。
Hさんが日に日に追い詰められていく。預金封鎖で生活さえもままならない。そんなときに限ってワルが近づく。
同業仲間が「ちょいと手形を切りなよ。金にしてきてやるぜ」という。半ば疑いつつも切ったところ、その日のうちに300万円ばかり手に入った。あとはズルズルである。
そして案の定、4、5回続いたところでパクられた。その手形がどんなところに回るかなど、聞かずともわかる。
身の危険を感じたHさんは、奥さんと離婚の形を取り、2人の子どもといっしょに奥さんの実家へ帰し、自分は浜松へ夜逃げした。
実の妹が浜松に嫁いでいて、その婚家が家を新築したとき、1000万円ばかり貸してあったからである。Hさんはそれを少しずつ返してもらいながら、ほとぼりの冷めるのを待つつもりだった。しかし、彼の思惑は足元から崩れていく。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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