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ブログ・野口 誠一
第186回:地元名士の夜逃げ
2008年9月12日
数年前のことである。広島県で商事会社を経営していたという40歳前後の社長が夜逃げし、八起会を頼ってきた。
迷惑がかからないように奥さんとは離婚の形をとり、2人のこどもも奥さんの実家に預けてきたという。
さっそくにも生活費を送らなければならないので、何かいい仕事を紹介してほしいとのことだった。
名刺には「M商事」とあり、広島市内にヘアサロン2店、駅ビルの中におみやげ店2店、ほかに書店、輸入雑貨店もあり、かなり手広く事業展開していたようである。
そのMさんの名刺をなにげなく裏返して驚いた。会長、理事長、委員長などでびっしり埋まっている。
町内関係あり、学校関係あり、商工関係あり、行政関係ありと、一見して地元の名士だったことはわかるが、その多さに半ばあきれた。私は皮肉をこめて「こんなに名誉職が多くては、経営など二の次だったんじゃありませんか」と尋ねた。
すると「いえいえ、それだけの名誉職があったから、いままで会社がもったんです」と変な答えが返ってきた。
彼の意味するところは、「次々に名誉職を引き受けたから地元の名士になれた。名士になれたから信用がついた。その信用があるから金融機関もたっぷりと融資してくれた。それがなかったら会社はとっくにつぶれていた」という理屈である。
この理屈には唖然とした。信用を逆手にとって借りまくり、あとは野となれ山となれとばかりに夜逃げでは、経営者というより詐欺師である。
しかも彼にはまったく反省の色がなかった。それどころか、「してやったり」の心さえ見え隠れする。私は即座に「これはかなり重症」と判断した。
そこから私とMさんの長い闘いが始まっていく。それは事業や経営にまったく関係ない奇妙な闘いだった。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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