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射界
2019年7月1日号 射界
2019年7月15日
ドイツに、こんな古い寓話が語り継がれている。吹雪の晩、馬に乗った雪まみれの旅人が宿屋にたどり着いた。宿の主人に「どこから来たか」と尋ねられた旅人は、今来た方向を指さした。宿の主人は驚いて「あなたはコンスタンス湖の上を横切ってきたのですよ。ご存知だったのですか」と反問。
▲それを聞いた旅人は馬から落ちて死んでしまったという。この地方では、コンスタンス湖は〝死の湖〟といわれて恐れられた危険な場所。旅人は荒れすさむ吹雪で白一色に惑わされ、原野と信じていたから、何一つ疑うことなく、ひたすら歩いて湖を横切り、やっとの思いで宿にたどり着いた。だが、宿の主人の一言で〝恐ろしい湖〟と知ってショック死した。
▲旅人は宿の主人から真相を聞くまで、そんな危険な場所とは知らなかった。視界を遮る吹雪の夜、原野と信じ危険な湖上を横切って宿を探す旅人には、危険いっぱいの湖など知る由もない。それを知った旅人は安らぎの心を失い、落馬して命を落としたという。人間心理の微妙さを衝いた寓話であるが、わが国にも〝あばたもえくぼ〟の語りがあるがごとしだ。
▲年齢を重ねるにつれて人は、時間の価値に敏感になり、明日しなければならないことがあれば、今日のうちに片付けておこうとする。若い世代は逆に〝明日があるさ〟と先延ばしにする傾向が強い。ベンジャミン・フランクリン(米国の科学者)が「汝は生命を愛するか。しからば時間を浪費するな」と言う通り、時間こそ生命を作り上げていると気付くべきだ。
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