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ブログ・野口 誠一
第191回:変わりゆく運命
2008年10月17日
Mさんのその後を追ってみよう。真面目に働き、毎月奥さんに仕送りし、八起会の例会で研鑽を重ねているうちに、いつしか彼のねじれた心はまっすぐになっていった。そうなると再起への意欲がわいてくる。
八起会は倒産者がその失敗を反省し、その原因を究明し、再び経営者に返り咲くための再起道場である。そこで修行すれば、誰だって再起への意欲がわいてくる。
Mさんも例外ではなかった。が、彼の場合は夜逃げしたばっかりに、倒産者未満である。いくら意欲しても再起は覚束ない。
そんなある日、Mさんが「会長、夜逃げを清算する方法はないものでしょうか」と言う。私の待ちに待った言葉がやっと彼の口を出た。そこからは一気呵成である。
八起会の顧問弁護士を通してすぐさま法的整理に入り、債権者集会に怯える彼のために模擬裁判を行い、そしてようやく彼は一人前の「倒産者」になったのである。
生き方を変えれば、生活態度を変えれば、おのずと運命も変わっていく。Mさんはその典型である。晴れて倒産者となった彼は奥さんと2人の子どもを呼び寄せ、六畳二間の貧しい生活ながら、結婚以来はじめて家族と向き合った。はじめて家族というものの温かさ、ありがたさを知った。
羽振りのよかった社長時代は家庭の下宿人にすぎなかったが、いまは心から家庭人である。そんな彼を美容師の奥さんが勤めに出て支え、そして運命が変わっていく。
奥さんの真面目な働きぶりに、ヘアサロンの女性オーナーが店を譲ると申し出た。スイスに嫁いでいる一人娘のところへ行くので、利益の2割をもらえればいいという。
かくしてMさんは再びヘアサロンの経営者に返り咲いた。店舗は3店。が、再起道場で修行した彼に、もはや倒産はあり得ない。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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