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ブログ・野口 誠一
第196回:湧き上がる感動
2008年11月21日
Aさんの仕事はなかなか見つからなかった。そんなある日、テレビで「便利屋」という職業があることを知った。即座に「これだ」とひらめくものがあった。
技術さえマスターすれば、資本は汗だけである。社員への給料の心配も、手形の心配もない。自分が汗をかくだけでいい。誰にも迷惑をかけずにすむ。彼はすぐさまテレビ局に電話を入れた。
翌日、さっそくAさんはテレビに出ていた便利屋の元締めを訪ね、弟子入りを乞うた。しかしけんもほろろ、言下に断られてしまった。が、どうしても諦めきれない。
その翌日も訪ねたが、またもや門前払い。それでも彼はくじけなかった。そして3度目の訪問で、ようやく入門を許された。無給、手弁当、通い修業という条件である。無給は痛かったが、奥さんに相談してOKを得た。
以後、Aさんの血みどろの修業が続く。半人前になるのに半年、一人前になるのに1年を要したところで、元締めから「好きにしろ」と独立を許された。
彼は喜び勇んで奥さんとともに手づくりのチラシを配って歩いた。そして最初に飛び込んできた仕事がトイレの糞づまりである。
Aさんは勇んで初仕事で出かけた。トイレを見るとかなりひどい。結局、マンホールを開けて詰まった汚物をかき出すしかなく、彼は何枚も重ねたビニール袋に腕を入れ、すこしずつかき出してはバケツに受け、それを運んで捨てる作業を何度も何度も繰り返した。
その日、Aさんは6000円のところを「お礼ですから」と言われて1万円もいただいた。その瞬間、彼の心に名状しがたい感動が満ちた。
困っている人の役に立てて、感謝されて、そのうえお金までいただける……そんな経験は生まれてはじめてだったのだから無理もない。この日からAさんの便利屋人生が始まった。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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