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ブログ・高橋 聡
第158回:給与体系変更の留意点(6)経営合理性
2019年8月28日
前回に引き続き、給与を変更する際に検討すべき事項や留意点、必要な手続きや実務上の注意点について紹介していきます。給与体系を変更する場合に検討すべき事項には、表に記載したおおむね5つの観点【図①】が必要となります。今回は「経営合理性」について解説します。
給与変更を検討する際に「経営合理性」を検討するといいでしょう。経営合理性とは「会社経営及び会社収益上の観点で付加価値を生む制度とすること」を意味します。
これまで解説しました通り、労働基準法は「時間による給与精算」を求めていますので、同じ運賃をもらっているAさんとBさんがおり、Bさんが運行に時間を要した場合、Bさんの方が高い給与となることになります。
このことは大方の経営者は違和感を覚えるのではないでしょうか。製造業は工場ラインの稼働時間を増やせば、生産量も時間数に比例して増加しますが、大半の運送業者の運送契約では時間の長短は考慮されません。過労運転防止などドライバーの健康面への配慮は当然ですが、労働基準法の原則的な考え方で給与制度を設計した場合、会社経営にとっては合理的ではない場合があります。
そこで可能な限り経営者側の視点で合理的な制度が設定できないか、検討していく必要があります。
例えば、給与制度を「運賃収入」「店舗立寄件数」「運行回数」「配達重量」などの基準とする出来高歩合給の導入を検討してみましょう。運賃収入×〇%、店舗立寄件数×〇円といった計算式で給与を決めるやり方です。時間基準ではない給与の決め方です。なお、出来高歩合給にも割り増し手当が必要ですが、基本給や諸手当に対する割り増し手当に比べると必要金額が少なくなります。
何より、「休まず売り上げに貢献するドライバー」「2運行目、3運行目に積極的に取り組むドライバー」「手積み・手下ろしのルートを担当するドライバー」など、会社への貢献度の高いドライバーや作業量の多いドライバーへの公平な給与分配が可能となります。
また、例えば、燃料代が徐々に上昇してきたとして、社長が「ハンドルさばき」「アクセルの踏み方」などに気を付けるよう省エネ運転を指示した場合に、ドライバーさんの一定数は実際に省エネ運転に取り組みましたが、日頃から管理を嫌う一部ドライバーは指示を聞かないため燃費が変化しません。そこで、運賃収入歩合給の計算を(運賃収入―燃料代)と変更、または燃料代の削減率を加味した歩合率を設定することで、省エネ運転への取り組み、燃料費の削減を目指していくことも「経営合理性」を意図した制度といえます。
ドライバーさんの精神面・健康面には十分に配慮したうえで給与の公平な分配、「経営合理性」も検討していくといいでしょう。
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筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
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