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ブログ・野口 誠一
第289回:遠くから呼ぶ声は…
2010年10月15日
自宅を取られようとピアノを取られようと、それは私が失敗したのですからやむを得ないとは思いますが、やはり辛かったですねえ。娘はピアノを持っていかれて、泣きじゃくっていました。親として、娘に申しわけないと思いながらも、どうすることもできません。ただただ涙が出て、止まらなかったことを憶えています。
私は途方にくれ、どうしてよいかもわからぬまま、会社の隅にへたり込んでいました。ところがいつの間にか、車のハンドルを握っていたのです。そしてなぜか、電車の踏切の上に止まっていたのです。おそらく死にたい、死ぬしかないという思い詰めた気持ちが、無意識のうちに踏切の上で車を停めたのでしょう。何かつくり話のようですが、本当に本当のことです。
おそらく私は車のなかで眠ってしまったのでしょう。やがて遠くのほうから「お〜い、お〜い」と呼ぶ声が聞こえてきました。そして私の名前を呼びながら、「死ぬんじゃないよ。おまえはまだ若い。なんだってできるじゃないの。死んじゃいけないよ」と言うのです。なんだろう、変なことを言うなあと思いつつも、気がついたらいつの間にか、車は踏切から離れていました。
しばらくして、頭のなかから霧が晴れていくような感じがして、ハッと気付きました。それは母の声だったのです。母が私をこの世につなぎ止めてくれたのです。そして、ピアノを持っていかれて悲しいはずの娘までが、私にこう言います。
「お父さん、いつまでも悩んでいないで。元気を出して。もう一度元気に働くお父さんを見たいよ。そしてまたピアノを買って。私、待つから」私はこの娘の言葉に感動を禁じ得ませんでした。この記事へのコメント
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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