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ブログ・小山 雅敬
第83回:なぜ掃除を徹底すれば事故が減るのか
2016年6月6日
【質問】清掃を徹底している会社は事故が少ないという話を聞きました。同業者の中にも清掃に全社で取り組んでいる会社があります。なぜ、掃除をすると事故の削減につながるのでしょうか。
私はこれまで約30年間、経営コンサルティング業務を続け、多くの運送業経営者にお会いする中で大変印象に残る経営者がおられます。その運送会社は社員教育に熱心で、教育の徹底は大企業の水準をはるかに超えていました。社長が若手社員と共に経営哲学書の輪読会を定期開催するなど、仕事の枠を超えた人間教育に取り組んでいました。社員はほぼ全員が運送業未経験者で、社長が一から仕事を教え込み、その会社色に染める教育を行っていました。
その会社は以前、他社と同様に安全研修や小集団活動などに取り組み、事故防止に努めてきましたが、なかなか事故が減らない状況でした。その後、社長の発案で会社の周囲を清掃する奉仕活動を始めました。大型トラックで出入りするため、近所へのご恩返しのつもりで始めたものでした。そのうち、住民の会社を見る目が変わり、感謝されるようになってきました。周囲からの感謝の言葉は社員の心に予想以上の効果をもたらし、近所の環境をきれいにしただけでなく、社員の心の中まできれいにしたのです。
社員は社外だけでなく、社内の清掃にも積極的に取り組むようになりました。気が付いたら自発的に清掃をするようになり、トイレ掃除も率先して行うようになりました。
掃除活動を続けていくうちに、トラックがいつ見てもきれいな状態になっていきました。また、修繕費も少なくなり、燃費も向上していったのです。掃除をすることが物を大事に扱う習慣にどんどん転化したのです。社長は「今までいろいろな取り組みをやってきましたが、掃除を徹底してやることほど事故の削減に効果があったことはありません」と言われました。
掃除がなぜ、これほどまでに効果があるのか驚くばかりです。一つの要因として考えられるのは、人間には環境に左右されて行動する特性があるからではないでしょうか。整理整頓がなされ、掃除が行き届いた会社に入社すると、人はそれが当たり前のルールだと認識し、それに合わせた行動をとります。反対に、汚い環境が当たり前の会社であれば、自分もやらなくてよいと考えるのが自然でしょう。普段、洗車を徹底している社員は、自然にトラックを大事にし、適正なスピードで車間距離をあけて安全運転をするのです。それが無意識に当たり前にできるから、事故が自ずと減っていくのでしょう。
社長は「掃除を始めてからお客さんに対する言葉遣いやマナーが良くなった」と言われました。掃除による心理的効果が、様々な場面で良い結果を生み出していました。整理、整頓、清掃の習慣により、物事を注意深く見る余裕ができ、心の余裕が事故防止や顧客対応に表れたとも考えられます。やはり基本的な行動の徹底が事故防止の基盤づくりになると言えるでしょう。
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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