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ブログ・小山 雅敬
第85回:再建に逆行する提案に注意
2016年7月4日
【質問】わが社はこのところ収益率が低迷しており、長期資金調達のため現在、金融機関に経営改善計画を提出しています。最近、経営改善を委託したコンサルタントの提案に従い、歩合給を全面的に廃止して固定給に変更しましたが、収益面でさらに厳しい状況となり困っています。
経営再建中に、このような悩みを訴える会社にお会いすることがあります。まず申し上げたいのは、賃金体系の改定を行うときは、経営状況に応じて検討する必要があるということです。見た目やコンプライアンスの観点だけで変更した結果、その後、経営が困窮した会社もあります。
運送業において、賃金体系の良し悪しは経営数字に直結する重要な要素です。安易な改定を実施しますと、肝心の経営に悪影響を及ぼすことがあります。実際に相談を受けた会社の例を挙げてみます。
その会社は歴史のある運送会社で、実運送部門のほかに大きな倉庫を所有し、外からは大変順調に見える会社でした。ところが内実は外見と大きく異なり、売り上げの8割以上を占める借入金の負担に押しつぶされそうな状況でした。粗利益は売り上げの1割程度しかあがらず、借入金の返済を利益で賄えないため長期資金の借り換えで何とか繰り回している状況でした。決算書上、売り上げ原価が過大な要因は明らかに労務費でした。
一方、荷主は大手企業が大半で運賃単価が高いとは言えませんが、他社と比較しても決して遜色のない額を収受していました。「人件費が売り上げの6割とはかなり多いですね」と尋ねると、「実は経営改善の相談をした方の勧めで賃金体系を変更し、以前よりかえって膨らんできたのです。今は後悔しています」とのことでした。
事情を聞くと、委託した専門家は運送業をあまり知らないコンサルティング会社で、会社の体制整備のために職能給体系の導入を勧めてきたとのことです。社長は経営改善に役立つと言われ、多額の費用を出して賃金体系を変更したようです。
本コラムでも以前述べましたが、固定した賃金テーブル上で運用する職能給体系は特に実運送会社には不向きです。適用できるのは利用運送または3PLの会社ぐらいです。その会社の場合は賃金体系変更後に社員の仕事振りが変わり、時間を短縮する工夫がなくなったとのことです。時間が掛かるほど給与が増えるので、頑張って生産性を上げようとするモチベーションが低下したというのです。
経営再建中の賃金体系はコストを加味した変動給を活用し、生産性をさらに高める方策を採ることが多いと思います。再建に逆行する提案には注意し、自社で冷静に判断してください。
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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