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  • ブログ・川﨑 依邦

    経営再生物語(168)情と非情のバランスシート〈事例A〉

    2017年9月6日

     
     
     

    〈社員を生かす道〉


    ある運転者が社長のところに来た。

     「社長、すいませんが、給料を前借りさせて下さい。年老いた母が病気で入院しました。入院代がかさんでいるののです」

     「ダメだ。もっと働け。サラ金には行くな」

     A社長は見抜いている。「彼はギャンブルで首が回らなくなっている。ここで前借りさせても、ますます深みにはまる一方である。ここは突き放すことで、立ち直りに賭けてみよう」

     A社長の心が分からない彼は、「前借りもさせてくれない鬼」と恨む。「こんな会社、辞めてやる」。しかし、辞めても行くところがない。「ギャンブルを控えるしかないか…」

     A社の配車係が不正を働いた。傭車先の業者からの金をポケットに入れた。傭車先の業者を使う見返りとして1台について、1000円のコミッションを懐に入れていた。総額が50万円になったところで、発覚した。この配車係は、よく働く男である。日曜日も祭日もなく働く。筆者はA社長から、どうすべきか相談を受けた。「配車係が50万円ポケットに入れました。わたしに泣いて謝るんです。社長の言う通りにします。思い切り処分して下さい。クビにして下さいと言っています。ポケットに入れた50万円の使い道は白状しません。『すいません』と言うだけです。どうしたらよいでしょうか」

     「言うまでもなく即刻、クビです」。A社長は心の底ではクビにしたくないのである。一般的にはクビが当然である。でもA社長はクビにしたくないのである。

     「彼には3歳の子供がいる。わしのところで育った人間だ」。結局、A社長はクビにしなかった。彼に反省文と50万円の借用書を書かせて、運転者に戻した。

     「1年しっかり運転者をやれ。そしたら、また配車係に戻してやるよ」。既に1年たって、彼は配車係に復活している。

     筆者は、A社長に尋ねた。「どうして、クビが当たり前なのに、残したのですか」

     「彼にもよいところがある。何しろ、よく働く。辞めると言って聞かない者は、引きとめても無駄だが、彼はまな板にのったコイ。『どうぞ処分して下さい』と言っている。こうなれば、生かす道を見付けていくのがよい。なかなか、よく働く人を見付けたり、育てたりするのは大変だよ。確かに50万円は個人では大金だが、会社にとっては大したことはない。生かす道が大切だよ」

     A社長は情のある人か、それとも非情の人か、どちらとも言える。「配車係に3歳の子供がいる」と言って情をかけたのは、ポーズではない。実は、A社長は車1台でスタートしたころ、乳飲み子を抱えていた。女房と乳飲み子を助手席に乗せて、1日24時間、文字通り働き抜いた。子供を見ると弱い。こうした背景があるのである。まな板にのったコイにとどめを刺すことはしないというか、できない。

     では情のある人か。A社長はお金にシビアなのである。「金のないのは首のないのと同じや」といつも言っている。無駄なお金は一銭たりとも支出しない。その意味では非情。配車係が傭車を頼む。そして、傭車先に車のナンバーと運転者名を確認する。この確認電話について、A社長は言う。

     「向こうから掛けさせ。電話代が無駄や」

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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