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ブログ・小山 雅敬
第216回:労働時間を削減すると賃金はどうなるのか?
2021年10月5日
【質問】働き方改革で従業員の労働時間を減らした場合に賃金が減るのではないかと社内から不安の声が出ています。今、コロナ禍で減収中の荷主に運賃引き上げ交渉などできる状況ではなく、現状では時給を上げる余裕がありません。同業他社の対策事例を教えてください。
労働時間を削減しても社員の賃金を下げないための方策は左記が考えられます。
⑴生産性を向上させ、短時間で同じ売り上げを確保する体制を構築して賃金の時給単価を上げる。
⑵固定残業代を賃金に組み込み、現状の賃金総額を社員に保証することで労働時間の短縮を図る。
⑶固定給から業績給への変更を行い、賃金計算を時間から作業実績に変えることで、労働時間の削減が賃金水準に与える影響を抑える。
⑷荷主との運賃交渉で運賃単価を上げて賃金の時給単価を上げる。
前記のなかで理想的には⑴と⑷が最も望ましく、各社がその実現を目指していましたが、昨年からのコロナ禍で状況が一変しました。コロナ禍で困窮する荷主との運賃値上げ交渉は停止状態、仕事の安定確保と社員の雇用維持が優先課題になりました。
一方、働き方改革はコロナ禍とは無関係に施行される予定であり、ドライバーの残業規制が施行された後に予想される退職者続出が大きな懸念材料になりました。社員の退社を避けるため、現在、⑵と⑶の方策を真剣に検討する運送会社が増えました。
例えば、賃金総額40万円(所定労働時間173時間)で月100時間の残業をさせている運送会社が月60時間へ残業時間を減らした場合、賃金がどうなるかを試算すると、固定給A社の場合、固定給23万2000円と残業代16万8000円で総額40万円だったものが、残業時間削減後は固定給23万2000円と残業代10万1000円になり、賃金総額が33万3000円に下がります。実に6万7000円の減収です。
一方、業績給B社の場合、業績給36万6000円と残業代3万4000円で総額40万円だったものが、残業時間削減後は業績給36万6000円と2万円になり、賃金総額が38万6000円になります。減収幅は1万4000円に縮まります。
固定給体系は前記の場合、残業代が賃金総額の約4割を占めており、残業が生活費として組み込まれているため、残業時間を減らすと生活ができなくなり、社員の退職を誘発しやすいのです。
業績給は計算を作業ごとに行うため、作業効率を上げて作業時間を短縮、または、荷主との交渉で待機時間を削減しても賃金にあまり影響を与えません。なお、固定残業代は賃金減収防止に一定の効果がありますが、「頑張っても変わらない」という社員のモチベーション低下を招くケースがあります。
(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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