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    大震災後「手伝って欲しい」 離れた荷主を引き戻す

    2011年5月18日

     
     
     

     荷主担当者の交代で契約の見直しを迫られるというケースは運送業界では多々ある話。埼玉県の事業者も長年に渡って取引をしてきた大荷主から契約を解除された。荷主の理不尽で自分勝手な対応に納得がいかなかった同社だが、「運が悪かった」とあきらめ、早々に手を引いた。ところが、9か月が経過した頃、その荷主からまた声が掛かり、徐々に仕事が増え、ついにすべてを任されることが決まった。同社の強みである機動力と真摯な姿勢が荷主を引き戻したと言える。


     同社が契約を解除されたのは昨年7月。それまで16年間に渡って取引を続けてきた荷主で、物流部門をすべて請け負っていた。荷主の社長や役員らの信頼を得て業務を遂行していた同社に変化が訪れたのは、社長が会長に退き、物流の責任者に会長の娘婿が就任してからだ。
     重箱の隅をつつくように同社のミスを指摘し、責任を追及してきたという。「娘婿の魂胆は分かっていた」という同社長だったが、文句も言わず、きっちりと仕事をこなすことを心がけた。
     しかし、風向きは変わらなかった。同社長によると、娘婿はもともと物流会社出身だったため、同社を排除し、自分がいた物流会社に仕事を任せたかったのだという。結局、娘婿は、社内で同社の評判を悪くさせることに成功し、同社との契約を解除。自分が在籍した物流会社に任せることを断行した。
     同社にとって、その荷主の仕事は年間1億円の売り上げがあり、全体の2割を超えていた。売り上げ減も痛いが、何より長年の取引でしっかりと信頼関係を築いてきたはずだったのに、「あっさりと交代させられたことが悔しかった」と、同社長は振り返る。納得できなかったが文句も言わず、契約解除を受け入れた。
     それから9か月が経った。新しい仕事を探すなど、失った仕事の穴埋めに奔走した同社長は、徐々に売り上げを戻していった。
     そんな折、3月11日に東日本大震災が発生し、首都圏でも物流が混乱する。食品輸送を手掛ける同社も忙しく駆け回っていたが、契約を解除された荷主の役員から連絡が入る。「仕事を手伝って欲しい」との内容だった。
     「当然、自分勝手だと思う」という同社長だったが、困っている元荷主の頼みを無視できず、結局は手伝うことになり、突発的で緊急な対応にも応じた。混乱する中にあって、同社の強みである機動力が生きた。
     一方で、同社に代わって入った物流会社は、緊急輸送にまったく対応できなかったという。同社と、その物流会社との仕事の差がはっきりと出たことで、荷主の気持ちに変化が表れた。同社を捨てた張本人の娘婿から連絡が入り、仕事の依頼を受けたという同社長は、「自分勝手だが、仕事は仕事」だと割り切って対応。
     その後、同社に代わって入った物流会社の3か月後の撤退が正式に決まった。その仕事を請け負えるのは、長年の取引で熟知した同社しかおらず、すでに水面下で交渉が進んでいるという。真摯な姿勢と混乱する中で発揮した同社の機動力が、一度離れた荷主を引き戻したのだといえるが、「人間関係も大切だが、最後は品質なのかな」と同社長は話す。

     
     
     
     

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