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    奇妙な噂は本当か 労災保険使うと労基署調査入る

    2012年2月22日

     
     
     

     制度が本来持つ趣旨とは真逆の方向で、「都市伝説」のように語られている言葉が間々聞かれる。その一つと思われるのが、「労災保険を使うと労働基準監督署の調査が入る」といった言葉やその感覚だ。労災保険は本来、ケガをしたり死亡した労働者やその遺族を救済する目的で存在するものだが、「都市伝説」が存在するために労基署の調査を恐れ、揚げ句には健康保険で治療するといった「労災隠し」まがいの実例も散見される。事業主や労働者の心理に根ざすような、こんな奇妙な噂がなぜ語られるのか。調査を進めていくうちに、情報公開の不備にも起因しているのではといった事実も分かってきた。


     兵庫県内にある運送事業者が構える倉庫内で、この正月明けに起きた労災事故の例だ。保管する精密機械を積み下ろしするためのフォークリフトを使用中、アルバイト従業員の指が複雑骨折する事故が起きた。同社社長によると、事故はアルバイトが就業時間外に他の従業員とともにフォークリフトの爪に乗るなどして遊んでいた際に発生したという。アルバイトは、一定期間が経過すると同社が正社員採用する予定だった男性で、出産を控えた妻もいるという。また、事故時点で健康保険には加入していなかった。
     アルバイトであること、終業時間外に遊んでいたこと、健康保険に加入していなかったこと。この3点が絡み合って同社長は悩んだ。健康保険が使えないなか、全治数か月に及ぶ治療費はどのように工面するのか。労災保険は使いたくないが、費用を工面するためには必要ではないか。しかし、アルバイトであり、かつ遊んでいた最中でもあるため適用できないのではないか。
     労災保険は、アルバイトであることで使えなくなるという制度でないことは、社長はすぐに知った。治療費工面のための最終手段を確保したことで安堵したが、最後のハードルは「労災保険を使えば労基署の調査が入る」という噂の存在だった。
     では、この噂は本当なのか。労災保険を実際に使ったことのある運送事業者は次のように話す。「何度か使ったことはあるが、まだ一度も調査に来たことはない。保険料は払っているのだから使わない手はない。しかし実際には、大小含めると頻繁にある就業中のケガを一つひとつ労災請求していれば、『安全管理はどうなっているのか』と言ってやって来る。だから大きなケガに限って、多くても年に数件程度しか請求しないようにしている」
     労災請求のたびに遂次、監督官がやって来るということまでは言えないが、機をうかがいながら使っているというのが噂の真相のようだ。
     だが、労働者災害補償保険法(労災保険法)で運用される労災保険と、「労働安全衛生法」を体現するための監督行政がリンクして語られるのは、法的には何を根拠としているのか。さらに言えば、「使用者の補償責任に関する保険制度」(現代労働法)である労災保険という名の制度を使うにあたり、事業者が労基署の顔色をうかがわなければならないのはなぜなのか。
     この理由について同県内のある労基署の担当官は、「労災の請求が提出されれば、その情報を(隣の窓口の)安全衛生部署に回す。情報を伝える法的な明文規定は内規にもないが、労基署全体が労働上の安全を現実のものとするための機関であり、そのために労災請求の情報を使うことに明文規定はいらないからではないか」と話している。
     労災請求時点では、労働現場で起きた事故は労災事故とは行政上も呼んでおらず、まだ労災の可能性のある事故に過ぎない。労基署が支給決定した時点で、初めて労災事故であるとカウントされるからだ。そうした可能性の段階で明文規定のないまま情報を伝える。そうした内情から都市伝説が広まっているように見える。
     労災保険は本来、従業員の業務上のケガなどに対して使用者に過失がない場合でも民事上の補償の義務が課される「無過失責任」を和らげる働きも持つ、使用者のための制度の側面もある。しかし、ある運送事業者は、「労災保険は、監督行政が情報を集め易くするための釣りエサのように見える」と話し、むしろ実用性がないにもかかわらず、加入を強制される「無用の長物」のように映っていることに問題点がある。

     
     
     
     

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