「この前、ウチで働いていたドライバーが会社を辞めたのだが、なんと退職代行サービスを使って、本人は一言のあいさつもなしに去っていったよ」とあきれた顔で話すのは、大阪府の運送事業者社長。「何度も事故を繰り返すような人物だったので、辞められたことが痛手にはならないが、なんとも虚しい気持ちになった」と続ける。

東京都新宿区の運送事業者も同様の経験をしたそうで、「急に退職代行サービスを使って出社しなくなり、引き継ぎもロクにできず、代わりのドライバーを確保するのに相当苦労した」と憤慨した様子で振り返る。

最近、運送業界のドライバーの間でも、こうした「退職代行サービス」を利用するケースが増えているという。

退職代行サービスとは、従業員本人に代わって会社に退職の意思表示をするサービスのことで、提供する業者のホームページには「会社に行かずに退職」「即日退職が可能！」などと、従業員にとってのメリットが大々的に宣伝されている。

退職代行業者は大きく分けて弁護士事務所、労働組合、民間企業の３つに分類され、弁護士や労働組合の場合は、退職の連絡の仲介に加えて会社との交渉もサービスに含まれ、有給休暇消化の申請や退職金の支払い請求、退職日の設定などを行うことができるが、それ以外の業者の場合交渉は一切行わず、退職の連絡の仲介のみを行うものがほとんど。費用はサービス内容によって異なるが、だいたい３万～５万円程度だ。

先述の運送事業者のように、急に辞められたことで仕事に穴が開いたり、引き継ぎができずに作業がストップするなど、退職代行を使われたことで業務に支障をきたしたという事業者が少なくないようだ。こうしたサービスを使って会社を辞めることは、法的に認められるのだろうか。また、拒否することはできないのだろうか。

大阪労働局に話を聞くと、「昔は、弁護士資格のない民間の代行業者が横行して、トラブルも多く発生していたが、最近はこの業界も整備されてきて、主に弁護士事務所等が退職代行サービスを行っているため、法律上の後ろ盾がある。法律効果は本人に帰属されるため、退職は有効となるのがほとんど」と説明。

民法第６２７条では雇用の解約の申し入れについて、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から２週間を経過することによって終了する」となっており、原則として社員から退職の申し入れがあった場合、２週間後に退職することができる。

同労働局ではまた、「信義則上の問題で退職代行サービスがありかなしかというのは、労使お互いに言い分がある話。『パワハラを受けていた』とか、『他の社員が辞める際になかなか辞めさせてもらえない様子を見てきたから代行サービスを利用した』という声も聞く。会社側としても、なぜ従業員が直接ではなく、お金を払ってまで代行サービスを使ったのかを振り返っていただければ」と話す。

では、退職代行サービスによるトラブルを防ぐためにはどうすれば良いのか。

社会保険労務士法人みつばち髙橋事務所（大阪府茨木市）の髙橋大生代表は、「会社と従業員がお互い納得した形で辞めるべきなのに、退職代行を使うとうまくいかない。『辞めるのは了承したが、●●日まで働いて欲しい』など、辞める時期を決めるといった交渉さえできなくなる」と指摘。

その上で、「就業規則に、『退職したい場合には、１か月以上前までに自筆の退職願を出す』『最後の給料は、会社が預けている健康保険証や制服などと引き換えに、手渡しで行う』などと定めておき、前もって従業員に伝えておくことで抑止力になる」と、事業者が取り組むべきことをアドバイスする。