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物流ニュース
個人事業主の道を選ぶ 運送現場の本音と建て前
2013年4月12日
十数年来の付き合いになる広島県の運送社長から電話が入り、「知り合いの若手(事業者)が困っている」という。亡くなった親父さんの名前になっている運送許可を自分名義に変更しようと行政関係者に相談したものの、「亡くなってから60日が経過しているために(相続の手続きは不可能で)新規許可を取るしかない」と突き返されたようで、何かアイデアがないかと尋ねてきたのだ。これまでも同様のケースを何度か見てきたが、「個人経営」が陥りやすい注意点だ。結局、その若手は新規許可を申請することにしたらしいが、この先の事業継承も見据えて法人化を勧める周囲のアドバイスを尻目に、再び個人事業主としての道を選んだという。
個人経営の運送事業を相続するには60日以内に継続認可を受けるのが原則だが、運輸行政マンによれば「期間内に申請さえしておけばいい」という。「忌明けとなる50日からわずかな日数であり、相続手続きのタイミングを逃すケースも多いのではないか」と、同じ事情で数年前に新規許可を申請するハメになった関西地方の事業者も既得権のために奔走した当時の様子を打ち明けるが、結局は「ルールだから仕方がない」とあきらめた。
不思議なのは、そうした境遇となったにもかかわらず再び、個人事業主として新規許可を得ようとする例が少なくないことだ。3年ほど前に個人経営から株式会社へと法人化した食品輸送の事業者は、「法人なら代表者変更で済む問題が、個人経営となると難しい話になる」と吐露。個人に与えられた許可の場合は、オーナーが交代するたびに「譲渡・譲受」の手続きが必要になるうえ、近年は譲渡・譲受などにも法令試験が課される煩わしさも考えて法人化したという。
個人経営を選んだ前出の若手によれば「親父が亡くなる時点でトラックは3台しかなく、その状態のままで商売を続けたかった」と説明。相続や譲渡・譲受でも法令試験があるうえ、いずれの場合も新規許可を取得する際の公示基準(最低5台など)が求められることも知らなかったというが、関係者のアドバイスもあって「もう一度、親父と同じ個人経営のスタイルをめざすために新規許可を取得することにした」。
取引荷主の要望で法人化する個人事業主もいる。ただ、平成24年3月末時点で全国に存在する一般貨物事業者(5万7601社=特積み・霊柩・特定を除く)のうち、55%に相当する3万1665事業者が「10台以下」と、急スピードで経営規模の縮小化が進むトラック事業。形態こそ個人経営だが、国内トラック事業の〝標準サイズ〟に近づいているうえ、「5人目の従業員を雇い入れるまでは社会保険への加入義務がないのもメリット。個人事業主の事業場でトラック台数が5台未満のケースは多く、社保未加入の問題意識は薄い」と、山陰地方の個人経営者。「息子と、その友人2人が3台のトラックで地場輸送をこなしている」。
一方、相続にしても譲渡・譲受でも、新規許可と同じく申請に際して保有するトラックは5台以上でなければならないが、ここにも建前と本音が見え隠れする。「例えば、現状で3台あるとすれば、あとはタダ同然の中古のライトバン2台を調達し、車検が切れてもそのまま放置。そうすれば運輸支局に届け出ている登録台数は5台のまま」と運輸OB。車検切れなら重量税や自賠責、任意保険なども不要だし、負担は自動車税くらいかと思えば「役所は滞納件数や未納額が増えるのを嫌う」と、いつの間にか保留処分の扱いにされて請求されなくなるケースもあるという。こうなると運輸行政の手元にある数字と、実際の「5台割れ事業者数」に大きな開きが存在する可能性もある。この記事へのコメント
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