昨年１２月、鳩を轢いたタクシードライバーが鳥獣保護法違反として逮捕された。記者のもとにも「防衛運転の対象に鳩や猫も加えなくてはいけないのか」といった疑問が寄せられた。法律の専門家に見解を聞くことができたので共有したい。

よつば総合法律事務所　川田啓介弁護士

よつば総合法律事務所（千葉県千葉市）に所属する川田啓介弁護士は、「野生の鳩を轢いて逮捕された件について一般的な感覚としては、『どうして逮捕までされるのか』と感じる人も多いだろう。あくまでも報道を見る限りだが、今回の事件では、目撃者に通報されていたり、鳩をめがけて加速した、つまり故意であった可能性が高いといった事情から、逮捕まで至ってしまったのではと考えることができる」と前置きし、「今回の警察の対応は極めて稀なケースと見てよいのでは」と分析する。

同氏によると、わざと轢き殺した場合は鳥獣保護法違反として刑事罰の対象となるが、意図せず鳩を轢いてしまった場合は、ドライバーに刑事罰が及ぶ可能性は非常に低いという。一方で「道路交通法上、物損事故として警察に報告する義務があるため、１１０番通報する必要はあると考えられる」と補足する。

同氏は、「今回の事件は自動車の運転をする人なら誰でも起こり得るが、わざと轢いたような場合でなければ、実名報道や逮捕など社会的制裁を受ける可能性は極めて低い」とし、交通法規の順守に加えて一般的な対策例としてクラクションや前照灯を利用した警告に加え、「わざとではないこと」の証拠としてのドライブレコーダーの利用も推奨している。

オーケーパートナーズ法律事務所 岡篤志代表

オーケーパートナーズ法律事務所（東京都港区）の岡篤志代表にも聞いた。「まず前提として、鳥獣を捕獲又は殺傷させた場合、１年以下の懲役又は１００万円以下の罰金となる（鳥獣保護法第８条第１項第１号・同法８３条１項１号）ため、本件では犯罪自体は成立している」としながらも「逮捕されるか否かは別の問題」と指摘する。

「逮捕する場合、逮捕の必要性が必要になるところ（刑事訴訟法第１９９条第２項）、逮捕の必要性とは逃亡のおそれ、又は、罪証隠滅のおそれの有無で判断する」とし、「一般論としては、本件でも逃亡のおそれ、又は、罪証隠滅のおそれがあると判断し逮捕した可能性もある」と分析。なお、鳥獣保護法には過失により殺傷した場合の規定がないため、過失で鳥類を轢いてしまっても罰則はないようだ。

同氏は、「運送業界に対する影響はないと思われる。過失による鳥類の殺傷に罰則はないため、故意に鳥類を殺傷させるなど悪質な場合でなければ罰則はない。そのため、通常のドライバー業務に影響はないはず」と予想。その上で「やむを得ない場合は、クラクションを鳴らす、ライトを照らす、徐行するなどで鳩を回避する行動をしておけば故意に殺傷をしたとはいえないと思われる。また、現実的にも、ある程度の回避行動を行っておけば刑事罰が科される可能性は低いのでは」としている。