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物流ニュース
受注額の低さに嘆きの声 低価格入札と再委託
2014年11月19日
契約の手法・内容や、その情報の開示が法によって定められる、自治体などの公共調達分野。競争のルールが定められたこの分野ですら、運送業務の入札に参加した事業者の多くから受注額の低さを嘆く声が聞かれる。ダンピングによる受注者の不履行を防ぐなどの目的で、最低制限価格制度などの導入は見られるものの、「納税者の立場に立った、できるだけ安く調達する仕組み」(自治体関係者)の発想は依然として、そのままだ。
「どうやって50万円台で仕事が終わるんだ」。地場の輸配送を主力とする近畿地方の運送事業者は、9月中旬に参加した兵庫県尼崎市での入札結果に目をやった。入札案件は、市立小学校の校舎耐震工事にともなう備品の移転業務。事業者によると、業務は来年1月5日の1日だけの設定のため、一定数以上の人員確保が必要だ。事業者は、入札の根拠となる金額を算定する際、この業務に38人を投入するとして90万円台後半で入札した。同時に参加したのは同社を含めて10社。結果、56万5000円で落札したのは西日本を中心に路線網を持つ業界大手だった。
それぞれの応札状況は、50万円台が3者、70万円台が2者、90万円台が4社、100万円超が1社だった。平均応札額は約82万7000円。落札者受注額と平均額とは26万円以上の差だった。90万円台後半で入札した事業者は、「落札者は業界大手。自社の従業員では採算が合わないため、下請けを使うのだろうか」などと話した。
尼崎市契約課で閲覧できる入札結果によると、今年4月以降に運送業務の委託入札は、学校の移転案件4件、市長選挙にともなう器材搬送1件の計5件。それぞれの案件で入札参加者は異なるが、応札者はおおむね10社前後。また、落札額は入札平均額から大きく離れているケースが多かった。同市契約担当者は、「落札額が低いからといって、一概にダンピングとは言えない。ヒトやトラックを遊ばせておくよりいいと考える事業者もいるのでは」と話し、入札結果の妥当性を主張する。また、これらのケースでは最低制限価格制度は適用されていなかった。
では、低額入札案件は実際、どのように業務が履行されているのだろう。公立図書館の業務を実際に手がけている運送事業者の例を見てみよう。
兵庫県内の別の自治体は、点在する図書館の分館の間で図書類を移動させる業務を入札に出している。印刷大手などが落札し、市から受注した業務は再委託の格好で中小の運送会社に流れてくる。県内のある事業者は、「荷主の都合で回ってきたのが、この本の仕分け、配送業務。これだけを受注していたら当然赤字だ」。ほかの運送業務を受注している手前、断りきれなかったのが図書館業務、という位置づけだ。同社の倉庫内では、物流用のパレットを何段にも重ねた上にビニールシートを敷いた作業台の脇で、役員の男性と女性のパート2人が本の仕分け作業をしていた。
多くの自治体では、このような再委託を禁じているわけではない。例えば大阪市では、いわゆる「丸投げ」を禁じるため、再委託の基準を入札時の仕様書に個別に書き込んだりはしているが、包括的に再委託を規定したものはない(同市契約管財局契約制度課)という。
法規制のある入札契約業務ではあっても、いったん民間の市場に業務が流れてしまえば、元請け―下請けといったそれぞれの経済プレーヤーの力関係の渦に取り込まれてしまっている。それを防ぐには再委託の禁止、もしくは最低制限価格制度の導入ということになるのだろう。
尼崎市の先の契約では最低制限価格は設けられていなかったが、ほかの多くの自治体では受注者による業務の不履行を懸念して同制度が設けられている。また、最近では「労働条件の悪化につながりやすい」(大阪市ホームページ)ことを明記する形で制度の導入がなされている。「公共調達が労働条件悪化に直接の手を貸すわけにはいかない」(関係者)との配慮だ。
同市の場合、国際的に公共調達市場を開放する目的から設けられた「WTO政府調達協定」により定められた約2700万円以上の調達に関しては「低入札価格調査制度」を、以下のものに関しては「最低制限価格制度」を導入している。
ただ、入札参加者や再委託を受ける事業者からは、「低価格入札が蔓延し、最低制限制度が歯止めになっているとは感じない。市場や国際基準を重視するあまり、産業がないがしろにされているのは民間市場と同じだと感じる」との声も聞かれる。この記事へのコメント
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