「飲酒運転の根絶」が世間的にも広く叫ばれているものの、飲酒運転による重大事故は後を絶たない。トラック業界でもさまざまな対策が取られているなか、近畿地方の運送事業者は、「酒を飲んでトラックを運転するドライバーは論外だが、なかには『高速のサービスエリア（ＳＡ）やコンビニの駐車場は道路でないから、車内で飲酒しても問題ない』と認識している者もいる。しかし、この認識には誤りがあり、大きな事故リスクにつながる」と指摘し、「正しい知識を理解させることで事故抑止につながるのではないか」と話す。

この事業者の言う通り、ＳＡやコンビニの駐車場も道路交通法の適用範囲であり、道交法では原則として「道路」とみなされる。

道交法が適用される「道路」とは、いわゆる公道（国道、県道、市道、高速道路など）だけでなく、「一般交通の用に供するその他の場所」も含まれる。そのため、コンビニやスーパーの駐車場のように不特定多数の人が自由に出入りする場所は、私有地であっても「その他の場所」とみなされ、道交法が適用される可能性が高くなる。ＳＡについても同様で、ＳＡは高速道路の一部であり、不特定多数の車両が出入りするため道交法の対象となる。

道交法が定める飲酒運転は、「飲酒状態における車の運転を禁止するもの」であるため、車内で飲酒すること自体は違法ではない。実際、車中泊の際に飲酒する長距離ドライバーも少なくないだろう。問題は、「公道でないから飲酒運転の対象外だ」と思い込み、ＳＡやコンビニ駐車場で飲酒した状態で少しでも車を動かすとアウトということ。例えば、ＳＡのレストランで飲酒した後、トラックを停めていた場所から別の駐車スペースに移動するだけで違法となるし、コンビニの駐車場で長時間停めていたところ、店員から注意されたため動かしても違法となる。そして公道での違反と同様に逮捕・検挙の対象となり、事故を起こせば重い責任が問われる。

前述の事業者は、「こうした勘違いをなくすことで、『やはり、運転する可能性が少しでもある場合は、車内での飲酒は控えよう』と、一人ひとりの危機管理意識が高まるのでは」と、理解を深めることが飲酒運転撲滅への一歩となると語る。

令和６年版「警察白書」によると、飲酒運転の取り締まり件数（同５年）は「酒気帯び」が２万８２５件、「酒酔い」が６４２件で計２万１４６７件と、依然として高い件数となっている。トラックによる飲酒事故も発生しており、国交省が公表した最近の事例として、６月２日午後１１時ごろ滋賀県東近江市のコンビニの駐車場で、同県に営業所をおく中型トラックが後退していたところ、駐車中の別の大型トラックに衝突。負傷者は出なかったものの、事故を受けて駆けつけた警察官が、中型トラックの運転者から酒のにおいがしたため検査した結果、酒気帯びが確認されたという。

もちろん、飲酒運転をさせないという姿勢で取り組んでいる運送事業者も多くある。

京都府の事業者は、「長距離のドライバーに対して、車中泊の際の飲酒は本人に任せているが、会社としてスマホと連動したアルコールチェッカーを持たせている」と対策を講じているという。「以前、ドライバーが持ち帰ったゴミの中からビールの空き缶が見つかり、不安になり導入した。検知器でクリアしているのを確認してから、運行指示を出すようにしている」。

「たとえ車中泊でも、飲酒は厳禁している」というのは別の事業者。「万一、飲酒が発覚した際は、トラックを降りてもらうというルールを決めている。それぐらい厳しくしないと徹底されない」とし、「会社としては遠隔点呼を導入して管理しており、今のところ違反者も出ておらず問題なく乗務してくれている」と話す。

両社は抑止策として点呼の充実を図っているが、物流業システム専門の共栄システム（大阪市西区）の前田繁孝社長は、「点呼は安全運転の要であり、遠隔点呼や自動点呼の環境が整ったとしても、ドライバーの安全に対する意識やモチベーションを維持させることも併せて考えないといけない」と話し、「ロボットに任せることと人が行うこと、この切り分けを行って共存することが望ましいのではないか」とアドバイスする。