「これでは、試用期間の意味がないじゃないか」と憤るのは、滋賀県の運送事業者社長。先日、他県にある営業所で開かれた安全研修会に社長も同席した際、そこにいた新人ドライバーの態度にショックを受けたというが、それ以上に驚いたのは、試用期間中でも解雇するのは難しいという事実についてだ。

その問題のドライバー（３０代、男性）は、外部講師の講演中ずっと、イスの背もたれにのけぞった姿勢で、足も組んでおり、とても横柄な態度だった。揚げ句、途中から居眠りまでしていたので、怒った社長は研修会後に呼び出し、「それが話を聞く態度か？」と注意したところ、「話はちゃんと聞いていた。居眠りもしていない。社長と私とは考え方が違う」などと、反省するどころか、まさかの反論をしてきたという。

あ然とした社長だが、これだけの理由で従業員を解雇できないことは知っていたので、「ここは俺の会社だ。俺の考えが理解できないのなら、会社に居続ける必要はないぞ」と遠回しに言うに留めて、その場を収めた。

後日、そのドライバーが３か月の試用期間中だったことを知った社長は、「それならばすぐに辞めてもらおう」と思ったが、顧問弁護士から「たとえ試用期間中でも解雇はできない」と告げられ驚いたという。

トラック運送業の労務管理に特化する社会保険労務士法人みつばち（大阪府茨木市）の髙橋大生社長は試用期間中の解雇について、「入社後１４日以内の期間であれば、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要になる特例がある。入社後１５日目以降の場合は正規雇用の解雇と同様に、解雇の３０日前までに予告するか、または３０日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う義務が生じる」と、労基法に基づく手続きの流れについて説明する一方、「１年、２年と働いている人よりは解雇のハードルは低いと言われているが、正規雇用の解雇と同様、慎重にとらえなければいけない。それなりの理由が必要」と指摘する。

髙橋氏は、「『この人物はウチには合わないので本採用にふさわしくない』と判断しても、納得がいかず『不当解雇だ』と訴えてこられる可能性はゼロではない。信頼関係を築きながら仕事をさせられない、と会社が判断するのも解雇の理由の一つと言えるが、争うとなると、会社も費用面など無傷では終わらないことを想定しなければならない」と解雇の難しさを話す。

そして、もし不当解雇と言われたとしても、会社としてきっちりと否定できるよう、解雇に至るまでに本人に、具体的な注意や指導を繰り返ししておく必要があると同氏。続けて、「よくあるのが、解雇通告を受けて『そんなこと、どこに書いてあるのか？』と開き直るドライバー。そこで根拠を示すことができるかできないかで大きく変わってくる」といい、就業規則の服務規律の中に「〇〇を●●回注意されても守らない者は解雇とする」などと根拠を入れておくと良いとアドバイスする。

前述の運送事業者のドライバーはその後、会社の雰囲気に馴染めず自ら退職したそうで、社長は「今後のためにも、試用期間についてしっかりと理解しなければいけないと思わせる出来事だった」と気を引き締める。