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物流ニュース
海上モーダルシフトの壁 船舶と人材の「高齢化」
2017年12月18日
環境問題やドライバー不足への対策として、トラック輸送から船舶や鉄道へ転換する「モーダルシフト」が推進されている。国交省では海上輸送の転換目標として2020年までに、雑貨の輸送を367億トンキロとしている。進捗状況は、景気の変動により一時期330億トンキロあたりで停滞していたものの、15年には340億トンキロと持ち直しつつある。しかし、数十年前から取り組んでいるにもかかわらず、海上へのモーダルシフトは大きく進んでいない。その理由について、関係各者に現状と課題を聞いた。
推進の舵を取る国交省では海上モーダルシフトが進まない理由として、「荷主や利用者の立場からすると、距離によってはトラックで運んだ方が安く、海上輸送はダイヤの縛りなど時間がかかる」のが原因であると認識している。そのため、CO2排出量の削減に貢献した事業者を優良事業者として表彰する「エコシップ・モーダルシフト優良事業者表彰」を行うなど、モーダルシフトを進める意図を周知していくほか、物流総合効率化法に基づく支援措置などを行っていくとしている。
日本内航海運組合総連合会(小比加恒久会長、東京都千代田区)の藤井英男部長と平田京子課長代理は、「海上モーダルシフトの主力はRORO船と一部コンテナ船で、食料品を含む一般雑貨と一部の紙を運んでいる」とし、「北海道からの利用が一番多く、農産品の輸送が増えている」と話す。
内航海運では現在、2つの高齢化問題に直面している。一つは船舶の高齢化、もう一つは船員の高齢化だ。「船に関しては最近、ほぼ順調にリプレイスが行われた」としながら、「高齢化に関しては船員のほぼ4割が55歳以上で、若年船員の確保が難しい状況だ」という。海上モーダルシフトを進めていく上で「積極的に荷主に売り込んでいく」とともに、「国交省の主導で航路や空きスペース、船会社などが一括で調べられるサイトの立ち上げ」などに取り組んでいくとしている。
日本長距離フェリー協会(入谷泰生会長、東京都千代田区)の小原得司事務局長は、海上モーダルシフトを推進するためには「料金と時間がポイントとなる。料金的には、どれだけ差があるかをはっきりさせること、時間的には荷主の条件さえ合えば問題ないのでは」と話す。ここ2、3年で、環境問題や運送事業者が抱えるドライバー不足、労働時間の問題などに理解を示す荷主が少しずつ増えている。また、船舶が自然災害の影響を受けにくいこともあり、BCP(事業継続計画)上、海上輸送を考えるところが増えている。
小原事務局長は「海上輸送は、安全で遅延なしで運ぶメリットがある」として、「海上輸送について、あまり知られていないため、モーダルシフト推進DVDなどを制作するなど荷主に対して積極的にPRしていく」という。
この動きは、国交省が今年度中に設立を進めている「海運モーダルシフト協議会」が中心となって取り組んでいくこととなる。同協議会には、日本長距離フェリー協会と日本内航海運組合総連合会のほか、荷主や運送事業者も加わるとしている。
さらに設立後の30年度には、全国のRORO船やフェリーなどのダイヤや空き状況など輸送船の情報を一括で見ることのできるサイトの設立やエコシップ・モーダルシフト優良事業者表彰の強化を行っていく。
軽貨物運送事業をはじめ、イベント設営事業などを行っているK’sBOX(神田飛社長、東京都東村山市)では、利用運送事業の許可もあるため、荷主との運送契約により海上輸送を利用した輸送サービスにも対応している。
神田社長は「荷主からの依頼でモーダルシフトの利用にも対応するが、独自で積極的にモーダルシフトを取り入れたサービスをしようとは考えていない」という。
「モーダルシフトの利用は、スピードとコストの面でメリットがない」とし、「海上モーダルシフトでは、出荷の港と到着の港で、少なくとも中間地点が2つ増えるため、コストが高くなる」と話す。
こうした部分にメリットがなければ、いま以上に海上モーダルシフトが浸透するのは難しい。ただし、荷主から依頼されれば、運送事業者も取り入れることが可能。そのため荷主へのPRが鍵となる。
また、モーダルシフトを推進するうえで、転換する輸送手段の輸送の安定性も重要なポイントとなってくる。海上技術安全研究所(東京都三鷹市)では、船舶と鉄道にどの程度の遅延があるのかについて現在、荒谷太郎博士と佐藤圭二博士が研究を行っている。
輸送の遅れは、モーダルシフトを進めるうえで大きな障害となるため、船舶と鉄道が実際に、どの程度、遅れているのかということを事前に把握しておくことができれば、物流計画が立てやすくなる。
船舶では長距離フェリー協会所属の14航路のフェリーを研究対象とし、昨年の10月からデータの収集を開始。フェリーは濃霧や波浪などで遅れや欠航になりうるため、それらの実態を分析することで、発生コースや要因を明らかにすることを目標としている。この記事へのコメント
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