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射界
2018年10月8日号 射界
2018年10月15日
自分の目で見たことよりも、人から聞いた噂のほうを信じるという人が多い。この傾向を戒め、「耳を信じて目を疑うは、古今の患(うれ)うる所なり」と、古代中国の著述家・葛洪は自著で警告している。この教えを全うしたのが村田清風(江戸後期の長州藩士)だ。明治維新の礎を築いた一人。
▲長州と薩摩の志士ら改革派が、藩政改革を手始めに幕政に挑んだ歴史は多くの人が知るところ。だが、彼の地道な活躍ぶりは余り知られていない。藩政改革で見せた手腕を活用しての幕政刷新の活躍ぶりは、目立つのを嫌った彼の人柄に起因する。初めて江戸に旅した際、「来てみれば 聞くより低し 富士の山 釈迦も孔子も かくやあるらん」と詠んでいる。
▲〝高い、高い〟と聞いていた富士の山容を見た二十歳前の感想である。その思いは「ナーンだ。今まで耳にしてきたほど高いことはない。噂ほどではないじゃないか。偉かった・賢かったと評判のお釈迦さまや孔子も、実物に会ってみれば大したものではなかったかも知れないぞ」と先入観の危うさを嘆じ、自分の目で確かめることの大事さを歌に託した。
▲シンガポールのマーライオンの噴水やデンマーク・コペンハーゲンの人魚姫像、ベルギー・ブリュッセルの小便小僧などは観光名所として人気だが、人によっては「世界三大がっかり」としか評価しない向きもある。もちろん、村田清風の気概とは時代も違い、視点そのものが異なるので趣きも違って当たり前。だが自分の目で評価している点で共通するだろう。
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