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物流業界で日頃感じている矛盾(2)
2012年10月4日
法令順守すれば売り上げが落ちるーー。どの業界にも「矛盾」が生じる場面がある。
今回は「物流業界で日頃感じている矛盾」をテーマに各事業者に聞いた。
メンタルヘルス対策を「産業カウンセラー」の資格を持つトライプロ(東京都世田谷区)の高木宏昌社長は、「運送業は労働集約型産業であるにもかかわらず、メンタルヘルスやストレス対策などの従業員援助プログラム(EAP)がなかなか浸透していない」と嘆く。
「メンタルヘルス問題の根本にはコミュニケーション不足があるはずだが、ドライバーのメンタルやコミュニケーションについて、積極的に相談・教育指導をしている事業者は少ない」とし、「運転技術や接客、環境整備などの教育は進んできているが、すべてのベースとなる点呼が、どこまで厳格に実施されているか疑問を感じる」と語る。
「職場での、うつ病発症数はますます増加傾向にあり、厚労省は昨年7月に、これまでの四大疾患に『精神疾患』を加え五大疾患とする方針を決めた。来年度からは多くの都道府県で医療計画に反映されることが予想される」と指摘した上で、「重要な資産であるドライバーに対し、今後は、これまでと違った目を向けていくことが重要だと思われる」と語る。(大西友洋)
連動できていない業界滋賀綜合輸送センター(滋賀県東近江市)の山本暹社長は、「Gマークを取得しても運賃が上がるわけではないし、仕事が増えるわけでもない。荷主側が、この制度のことを全く知らないことに問題がある」と指摘する。
「業界で連動しなければ自己満足で終わってしまう。コレでいいのか」と同社長。「また、行政にしても、国交省以外の行政機関はトラック運送事業のことを何も知らないのではないか。一般的な『危険、怖い』というものだけで、様々な規制が作られているとすれば、コレも矛盾していると言ってもいい」と指摘する。
「環境問題を考えて、交通事故防止にも前向きに取り組んでいる。様々な規制をクリアしても、運賃として報われない」というのは、トラック運送業として、大きな矛盾だと指摘する。(小西克弥)
「良い会社」の基準事業者のほとんどが中小・零細企業の運送業界。社会保険未加入、下請法違反にも関わらず、安い運賃で仕事を受けた会社が私腹を肥やしている実態に、金子運送(東京都板橋区)の金子学社長は嘆く。
「運賃が安くて、会社が潤っていれば『良い会社』なのか。利用者には、どんな会社がどんな事業を行っているのか、『運賃』ではなく『人』を見て判断してほしい」と強調した。現場の窮状が国民に広く認知され、「真面目に取り組む人が報われる社会になれば」と話す。
適正運賃収受や白ナンバーなど様々な問題がはびこる中でも「『私たちが業界を支えている』という強い気持ちを持って日々の業務に取り組んでいく」と語った。(半田桃子)
運賃問題の意志統一「業界全体でもっと運賃を上げよう、適正運賃を収受しようと活動しながら、個々の運送事業者は自由競争の中で値下げ競争を繰り広げている。もう少し意志の統一を図るべきではないか。当社では相見積もりになった場合、必ず高い運賃を出すことにしている。どこにでもできる仕事はムリに取りにいかない」と流通システム中部(愛知県小牧市)の近藤勇一社長は語る。(加藤 崇)
白ナンバーのダンプ「トラックは一生懸命に書類を整えて緑ナンバーで営業をしているのに、事実上の運送行為をしているダンプカーは、どうして白ナンバーが横行しているのか。ダンプは個人事業主が多く、運行管理もずさんになりがち。安全上問題があるのは明白だ」と森川運輸(名古屋市南区)の森川武敏社長は訴える。(加藤 崇)
安全より環境に重点?木村運輸(大阪市西区)の木村貴広社長は、運送業界の環境対策について矛盾を感じている。
環境対策は、さまざまな助成制度があるが、安全対策についての助成制度をもっと充実させるべきと強く訴える。
大型のCNG車の導入が進められているものの、インフラ整備が乏しいことから、あまり実用的でないという。CNG車の導入は、事業者だけでなく荷主、一般車両に対して、燃料不足によるエンストなど危険性が高く、さらにドライバーも燃料を気にしすぎて、運転に集中できない可能性も高い。そういった面から環境よりも安全に対する取り組みが重要と話す。
「安全対策に重点をおくことで速度超過が減少し、排ガスも減少する。結果、安全対策だけでなく、環境にも大きく貢献できるのではと考えている。デジタコをはじめ、ドライブレコーダーなど運転状態を把握することで、速度超過や割り込みなど無理な運転が回避できる。ドラレコを取り付けていない運送会社は、ドライバーの無茶な運転を見逃している可能性もある。ドラレコを強制化することで安全と環境にも大きく貢献できる」と指摘した。
また、環境対策では地域で規制が異なるが、安全に対する取り組みを重視することで、全国で統一された基準になることも考えられると語る。(佐藤弘行)
安い運賃が悪循環荒川急送(岐阜県羽島市)の渡邊勝也社長は「安ければ良い、という風潮は結局、自分たちの首を絞めるだけ」と警鐘を鳴らす。更にトラック業界に限れば「運賃の自由化と規制緩和による過当競争で、各社の収益が圧迫されれば税収も減ってしまうのでは」と指摘する。
1990年の規制緩和によって新規参入が大幅に増加。供給過多によって運賃水準は低迷し、トラック事業者の経営を圧迫している。事業に必要な車両や設備は稼働日数に関係なく一定であるため、少しでも稼働効率を上げようとすれば、今度は拘束時間などの「法令の問題」が立ちふさがる。安全面を犠牲にして事業を成り立たせる事業者が後を絶たないのが現状だ。
「ライフラインを支える我々の業界が、ここまで自由化されて良いのか疑問。同じように規制緩和されたバス業界も、関越道の事故をきっかけに見直しが進められているが、事故が起きてから見直すのでは遅い」と指摘する。(中道幸男)
最低車両数見直しを
トラック業界の矛盾といえば、営業ナンバーを取得するには白ナンバーで実績を作らなければならないとする大前提がある。
行政、荷主、同業者の言い分もはっきり分かれている。行政は早く届け出てもらいたい。荷主は、安くやってもらえる。営業ナンバーから見ると、同じ土俵にいないといった現実がある。
そして究極の矛盾は5台割れ業者の存在。行政は5台割れ業者に助成金を設置し、台数を補充できるよう整備したが、利用する業者はほぼ皆無。
先日開かれた愛ト協事業者大会で、流通経済大学の野尻俊明教授は、将来ビジョンに関する中間整理を基に規制緩和などについて講演。「?5台?とは限定できない。安全規制全体を見直すことで、最低車両の意味を実現するべきだろうといった議論になっている」と述べた。運行管理者制度の充実、参入審査の厳格化、独禁法まで広げようという方向性のようだ。下請法の仕組みで、多層構造に切り込んでいこうという意見もあると報告された。 (戸嶋晶子)
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