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    新春フィクション劇場 20XX年の物流現場

    2013年1月9日

     
     
     

    truck1_0101.jpg 運賃が低迷するなかで安全や環境の対策費をどう吸収するか。さらに、新しい普通運転免許が若年労働者の雇用に深刻な影響を与えだした「20XX年」。究極の低コストをにらんで運送事業の台数規制撤廃(個人トラック)を求める荷主団体と、既得権益を死守しつつ経営負担の軽減化を訴えるトラック業界の主張に歩み寄りを持たせる格好で、業務請負業にトラック運送が加えられた。ここがチャンスと見たプロ歴15年のトラック・ドライバー、古倉祐市さん(仮名・34歳)は、欧米では当たり前になっているマルチワーカーに転身し、1日数社の請負ドライバーとして業務を掛け持ちするようになっていた。



     「パパ、これも大丈夫かしら?」と、事務所を兼ねる祐市の部屋に女房の輝美が数枚の請求書を持ってきた。中学校に通う長男が買った電子辞書や、女房が友達らと昼に食べたファストフード店のものだった。ドライバーとして働いていた運送会社を辞めて業務請負を個人開業した当初、サラリーマン時代に経験することがなかった「領収書」の魅力にハマった祐市には、手当たり次第に領収書をかき集めて申告したことを税務当局に指摘された苦い思い出がある。

     以前に勤めていた運送会社の社長は急進的な考えの持ち主で、法律のグレーゾーンを歩くように「ドライバーの社内独立」「社員のオーナー制度」など次々と新しいアイデアを試した。もちろん会社側の管理コストを圧縮する狙いもあったが、向上心のある先輩ドライバーのなかには、社長の誘いに乗って?成功?したケースもある。そうした光景を日常的に見てきたことで、マルチワーカーへの転身に不安どころか、むしろモチベーションの高揚を感じるほどだった。

     10年以上のプロドライバー歴という開業の条件はあるものの、運送サービスの業務請負で生計を立てることに希望があった。「稼ぎたい気持ちは分かるが、これ以上は働かせられない」と、アイデアマンだった社長も労働時間の問題で行政処分を受けて以来、随分と変わった。運送会社の指揮・命令を受ける人材派遣と違って、自らの判断で仕事をこなす業務請負にとっては自前のトラックが必要になるが、5台という運送事業の台数規制が事業化を妨げてきた。そのため、運送サービスでも業務請負が認められたことは台数規制の撤廃どころか、事実上のトラック運送事業許可の存在意義さえ失わせる意味を持ったからだ。

     「個人事業主の業務請負ということで労働時間に縛りはなく、仕事がある限りは働き続けられる。健康保険は国保も社保も3割負担だし、サラリーマン時代のような厚生年金もないが、それだって小規模共済などを活用すれば補うことができる」。かつての先輩ドライバー数人を誘って現在、登録制のマルチワーカー法人を立ち上げようと計画している。

     給料生活者だった当時には無縁だった領収書の整理など、経理作業は煩わしいと思うが、輝美の差し出したレシートに目をやりながら「それはダメ、これは落とせる」と、いっぱしの経営者を気取る。ドライバー不足に悩む三つの運送会社で、早朝から日付が変わるころまで、請負ドライバーとして掛け持ちでハンドルを握る日々で稼ぐ収入は、見た目にはドライバー時代の倍ほどでしかないが、通常の消費を経費で処理することで実際の所得を抑え、結果的に5階建ての公営住宅にも安く入居できた。「次は新車の4トントラックを買おう」と、輝美に笑いかけた。

     景気回復が遅れ、雇用の先行きにも明るい兆しは見えない。かつて「高給取り」のイメージもあったトラック・ドライバーは、不人気職種の上位組に定着しているが、「2トン車にしか乗れない」という新普免の所持者が年を追うごとに増えるなかで、一段とドライバー離れが加速している。また、過当競争や低運賃の状況が続き、雇用の硬直化を嫌う運送会社からは、「必要な時間に、必要なだけ働くドライバー」を求める声も大きい。(長尾和仁)

     
     
     
     
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