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社保滞納で「運賃差押え」資金繰り悪化 給油制限…自己破産へ
2014年10月8日
「この商売は燃料を止められたら、そこでオシマイ」と自嘲ぎみに話す70歳を超えたトラック事業の男性社長。?元社長?というのが正確な表現かもしれないが、同氏はこのほど、35年間にわたって手掛けてきた物流事業を清算する手続きに入った。「抜けられる(自主廃業できる)のは勝ち組」と皮肉られるほど厳しい局面が続くトラック運送事業だが、自己破産の道しか選択の余地がなかった同氏の会社は保有トラックが十数台の、いわば業界のアベレージ的な存在。放漫経営でもなかった元社長の姿からは、「あすは我が身」という業界構造の現実が見えてくる。
西日本地区に本拠を構える同社の経営が行き詰まった背景には、いくつかの不幸な要因が重なる。「甘い誘いに用心しつつ、十分な下交渉をして引き受けることになった新しい仕事が結局、荷主企業の計画変更で白紙になった。新車も3台用意していたために元請け事業者に抗議し、『ほかの仕事を回して穴埋めをする』ということで引き下がった」と元社長。しかし、元請け事業者の窓口担当が何度か変わるうちに「その安運賃の仕事さえも受注できなくなった」と打ち明ける。同業者の下請け仕事をかき集めるなど「なんとかやり繰りしていた」というが、年金事務所による?運賃の差し押さえ?で事態は再び深刻化。「社会保険の未加入が最悪の場合、営業停止に直結するという行政処分はトラック事業のほかにもあるのだろうか」と吐露する同氏。受給条件となる加入年数に不足があるドライバーのなかには社保を拒否する例も少なくないが、「全員が加入しないと行政処分になり、社保料を滞納すれば差し押さえ。未加入なら滞納はないし、差し押さえられることもなかった」とグチが混じる。
もちろん、社保料の滞納が同氏の責任であることは否定できない。「以前の(社会保険事務所の時代の)ように強硬手段に出ることはないとタカをくくっていた」という同氏は、それまでと同様に燃料代やトラックの修理費などの支払いを優先。しかし、年金事務所の対応は予想とは違った。荷主や元請け事業者から入金予定だった運賃を差し押さえられたことで資金繰りは急激に悪化。周辺に広まったウワサによって信用も一気に失墜した。
「事情を説明したところで、そう簡単に耳を貸してくれるはずはなかった」。長年の取引だった燃料販社の担当者からは「300万円を入れてもらえれば10??、13??なら500万円くらいの担保がないと納品できない」といわれ、「そんな少量では1週間分にもならない」と旧知の同業者にも相談。しかし、同情してくれるものの、燃料代を立て替えるには高年式の大型車の名義を移すことが条件とされた。切羽詰まった同氏の状況を知り、車両の買い上げを打診してきた同業者もいたが、「時価の半値以下の金額だった」という。
結局、好条件で何台かの車両を買い取ってくれる業者を自分で見つける一方、支払い条件の変更などを求めて取引先を回ったものの、末期状態にあった同社のウワサは猛スピードで拡散。「やり手のドライバーが一人去り、また一人…。揚げ句に、信頼していた内勤の管理者までがウチの『Xデー』が近いというようなことを取引先に吹聴する始末。本当に情けなかった」。
かつてと違い、現在は燃料を買う相手も数が絞り込まれ、商売を畳む整備工場が増えたことで、トラックの修理を頼む先も限定されるなど「買い手側の強気」は通用しない。すべての経費がアップするなかで、運賃だけが置き去りになっている感は強い。確かな輸送技術に裏打ちされ、堅実に歩んでいるように見えたトラック十数台の実運送事業者。まさに業界の平均的な存在だった同社だが、その経営破たんには小規模・零細のトラック事業者が共通して抱える不条理が映る。
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