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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(367)リーダーシップについて(5)―2
2022年2月28日
私から見ると、所長はいつも偉そうに堂々としていて「すごいな、すばらしいな」との尊敬心を感じさせるタイプであり、実務リーダーA氏は違っていた。所長は確かに税理士ではあるが、所長の性格はいってみれば〝総理大臣〟の如くで、200人以上のスタッフのシンボル的リーダーといえる。A氏が所長の権威、税理士という資格をうまく活用し、リーダーとして取り仕切っていた。
年齢30代、税理士資格はなく、しかも所長の子ではない。このA氏が、いわば、知識集約的な会計事務所の指導者たりえているのは、どこに要因があるか。それは人間的な豊かさである。
A氏と所長は絶妙のコンビである。所長がA氏の存在を認めて、すべての運営を任しているという点では、所長の人間性も深い。A氏がそれだけの力を発揮しえているのも所長のおかげである。そしてA氏と所長のコンビなくしてはビッグな会計事務所になることはなかった。
事務所の幹部は、A氏に心服している。理屈ではない。したがってA氏は独立する気になれば、事務所のほとんどの得意先とスタッフを引き連れていける。それをしないところがA氏のリーダーとしての卓越さである。私心を捨てて、事務所の発展に尽くしているその姿勢が、成長要因である。
A氏の雰囲気は、面談していて心暖まるようなスケールの大きさがある。厳しく仕事上の注意もするが、その人のためを思っている心情が伝わってくる。私がその事務所をやめて独立した際のA氏の対応は立派であった。
私は辞めようと決意し、A氏に申し出た。退職理由は、独立である。はじめ、私は自分が担当していた得意先を全部いただくつもりであった。そのため、A氏と何回も話し合った。所長は私の考えに対して激怒し、カンカンであった。「得意先をもって出ていくとは何事だ。そんなことをしたらクビだ」
しかし、A氏は粘り強く深夜にわたって何回も対応し、独立のルールについて説得し続けた。その説得がなんともいえぬ厳しさと暖かさがあった。私は、所長と喧嘩してもどうってことはないが、このA氏とは決裂したくなかった。
何故だろうか。それはA氏の私心のなさに心打たれたからである。それで私は、退職を1年先に延ばした。この延ばした1年が、私にとって実に貴重な日々となった。この1年間、A氏は私にやりたいようにやらしてくれた。
このスケールの大きさ、人間性の豊かさが、A氏の指導力の根本である。1年先に辞めるとわかっている者に好きなようにやらせることは、普通はできない。昇給もしたし、ボーナスも通常通りであった。
この1年間、所長とは一言も口をきくことはなかったが、何とか円満退職することができた。私は心の底からA氏と事務所に感謝している。
やめてから、年賀状は欠かさずA氏からはいただいている。A氏のスケールの大きさは、はかりしれない。
(つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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