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物流ニュース
物流会社に防潮壁完成 市の対応なく「自己防衛しか…」
2019年12月9日
神戸市の臨港地帯に立地する物流会社の敷地の周囲に、高さ2.8メートルの防潮壁が張り巡らされた。昨秋の台風がもたらした高潮により地域一帯が浸水。保管していた荷主の貨物全てを廃棄せざるを得ない事態に追い込まれた。臨港地帯では、災害時にも海水が入り込まないよう市による工事も進められるが、そうした公的な対策が完了した地域に立地する事業者からですら、「これで海水が入り込むことはないとは、市からは聞いていない」など、不安の声は尽きない。このほど完成した防潮壁の内側で昨秋、何が起き、関係者はどのように判断したのか。
約2000平方メートルの敷地内に建つ、2階建て倉庫。その1階部分の天井とほぼ肩を並べる高さにまで、厚さ約40センチのコンクリートと鉄扉が施される。前面・側面だけでなく、敷地の周囲約300メートルに張り巡らされた。
神戸港の大規模人工島・六甲アイランド。防潮鉄扉をこのほど完成させたのは、岸壁から200メートルほど離れた島内西側に位置する丸山商運(丸山俊行社長=写真左、本社・兵庫県稲美町)の六甲アイランド支店だ。
同社は、住宅建築に使われるプレカット資材の輸送・一時保管を主力とする物流会社。防潮壁の直接の施主は、同支店倉庫の所有者でもある、顧客の関連会社。「今後の(高潮)対策に」と、顧客筋が資金提供した。その額、防潮壁だけで約3億円。
昨年9月4日、神戸港をはじめ近畿各地を縦断した台風21号。同支店周辺一帯が高潮による海水で浸水した。支店事務所内で、「太ももあたりまで海水に浸かってしまった」(同社・兼平浩行支店長=同右)。トラックが2台水没し廃車に。保管中だったプレカット材、製品原価にして約3000万円分も海水に浸かり、廃棄物に変わった。
倉庫内の片付けなどの処理の最中、現場を切り盛りした兼平支店長が忘れられない事態が二つ起きた。ひとつは、「(六甲アイランド周辺に起きている事態の)認識がない顧客の中には、まだ海水が倉庫内に残っている段階から、『製品の出荷はどうなっているんだ』と問い合わせてくる向きもあった」(兼平支店長)こと。
そしてもう一つが、賠償保険。「被害の当初は貨物について、保険でカバーできるとの返事があった。だから顧客にはその旨を伝え、顧客から請求書も出てきた。しかし2か月後には『カバーできません』と」(同支店長)。築いてきた信用が崩れていくのを感じた。
その間も、「神戸市の高潮対策は見られなかった」(丸山社長)。顧客に相談し、防潮壁を築く合意が得られ、工事が始まった。完成は約10か月後の今年9月。「保険も市も国も守ってくれない。自己防衛しかない」(同社長)。顧客には、水害に関しての責任は全面的に持てるものではないことを伝え、合意も得た。
丸山社長は、「ウチは幸い、顧客とのコミュニケーションがあったから異例の防潮壁できた。このような水害に関して運送、物流業に何らの支援や保険も出ないというのは、テロにあうことと一緒」と話している。
「想定外」──。その一言で終わらせてしまえる立場と、そうでない立場の違いがあることを、取材を通して改めて思い知った。
神戸市は今春から、神戸港にある別の人工島・ポートアイランドの一部で、岸壁をかさ上げする工事を実施。付近の物流事業者などは、「昨年の高潮があったことを受けた、高潮対策だろう」との観測があった。
この物流事業者も昨年、高潮による水害で3台のトラックを廃車にした。従業員のマイカーや保管貨物も水没した。事業者は、「ここで商売する以上、自社対応も必要だが限界がある。倉庫内の貨物は直に置かないでラックの上に置くくらいしかできない。かといって、市の対応をそこまで当てにできるわけもない」と話す。
神戸市が今回かさ上げしたのは、これまでの岸壁から数十センチ程度のもの。市海岸防災課によると工事は、高潮対策ではなく、南海トラフ地震などを想定した「津波対策」だ。
同課は、神戸港の海水面の標準より同市中央区で3.7メートル高くなると想定されている市域の高潮対策は、平成27年頃までにすでに完成していることを説明。今回の岸壁かさ上げ工事は、高潮より20センチ高くなると想定されている津波対策だということだ。こうしたかさ上げ工事について同課は、「1〜2年で囲い込みが終わる」とし、完成が目鼻に入っているとのこと。
同市は、昨年の高潮被害が起きてからも、過去に想定した高潮の想定基準を変更しておらず、今回の津波対策工事によって事実上の高潮対策の補完を実施している状態だ。
別の工事名目によって、想定を超えた災害への対策を事実上進める姿勢──。「想定外」の言葉や反省すら、そこにはない。臨海地域で運営する事業者が「当てにできるわけもない」と話す真意は、そうした事実を透視しているかのようだ。
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