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ブログ・馬場 栄
第122回:再雇用時の労働内容と待遇について
2017年12月28日
今回は、「再雇用時の労働内容と待遇」について取り上げたいと思います。先日の本紙1面に、ある裁判が大きく取り上げられておりましたので、お読みになった読者の方も多いのではないでしょうか。判決の内容を今一度おさらいしますと、定年後再雇用された嘱託社員のドライバー3人が再雇用時に下がった賃金について、正社員と賃金格差があるのはおかしいと訴えました。そして、裁判所は「業務内容が正社員と同じなのに、賃金が正社員と異なるのは不合理」として、正社員との賃金の差額である約400万円を支払うよう運送会社に命じました。この内容は運送業のみならず、様々な業界に今後、波紋が広がるかもしれません。
再雇用時に業務内容は一緒なのに給与が下がるということは実際よくあり、思い当たる会社も多いのではないでしょうか。運送業の場合、60歳だとまだまだ肉体的にもトラックを乗りこなしているドライバーが多く、高齢化が進んでいる業種の一つです。そんな中、再雇用する際に業務内容を変えずに賃金を引き下げることが「慣習」となっている会社もあるのではないでしょうか。今回の裁判でその「慣習」が違法であるとされたのです。
では、会社はどのような対策をとることが出来るのでしょうか。今後、60歳になったからといって理由もなく待遇を下げては無用な争いの原因となってしまいます。そのため、我々は会社が一方的に60歳以降の働き方について決めるのではなく、あらかじめ働き方の選択肢を用意したうえで社員が選択すれば、不満も出にくくなるのではないかと考えます。
例えば、一つは今までどおりバリバリ働いてもらう選択肢です。60歳になったからといって何も変わりません。仕事内容も変わらなければ、待遇も変わりません。これであれば何も変わらないので社員は納得するでしょう。そして、もう一つは60歳で待遇を下げる選択肢です。ただし、待遇を下げるからには何か納得のいく理由が必要となります。納得感のある理由の具体的例として、次のようなことが考えられます。
①長距離便に乗っていたが、時間の短いルート便に変更【労働時間の短縮】
②大型車に乗っていたが、小型車に変更【運転負担の軽減】
③積み下ろしなど運転以外でも負担があるルートだったが、運転以外は負担のないルートに変更【業務負担の軽減】
今までの仕事内容と明確な差をつけているのであれば、待遇の差も説明できるのではないでしょうか。会社が仕事とそれに対する正当な待遇を用意し、社員が60歳以後の働き方を自ら選択できるのであれば、60歳以後の働き方に納得し、今回のような争いが起こらなかったかもしれません。また、60歳以後の働き方を選べるのであれば、社員にとって自分の年齢、体調に応じて無理せず長く働くことができます。会社にとってもドライバー不足の今、貴重なドライバーを長く抱えることができ、メリットがあるのではないでしょうか。
(保険サービスシステム株式会社・社会保険労務士・馬場栄) -
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筆者紹介
馬場 栄
保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士
年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。 -
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