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ブログ・野口 誠一
第139回:再起の群像 失敗した夜逃げ
2007年7月26日
Nさんは累が及ばないように母親を親戚に預け、奥さんとは離婚の形をとり、3人の子供とともに実家へ返した。そして夜行列車にとび乗った。最悪の選択である。
会社倒産はやむを得なかったとしても、家庭倒産の必要はまったくなかったし、夜逃げにいたっては論外である。Nさんの場合、自宅と200坪の工場用地を処分すれば、1億4、5000万円ぐらいにはなり、十分整理に耐えられたのである。が、それを彼の罪悪感が阻んだ。3重帳簿の悪事が露顕することを恐れたのである。
Nさんは九州へ逃げた。そこには大学時代の親友がいたからである。が、親友はポンと10万円ばかりを投げ出し、「付き合いは、これっきりにしてくれ」と、まるで厄介者扱い。学生時代は父親の経営がまだ順調だったこともあって、Nさんは小遣いに不自由しなかった。その小遣いで親友にも随分おごったし、面倒も見た。なのに厄介者扱いである。友情も何もあったものではない。
Nさんは落ち目の悲哀を噛みしめながら、九州に背を向け東京へ向かった。が、運の悪いことに、途中の大阪で債権者の1人に見つかってしまった。その債権者は東京と大阪でレストラン・チェーンを展開するオーナーで、Nさんは夜逃げの数日前、そのオーナーから300万円ばかり借りていたのである。
オーナーの怒りは尋常ではなかった。「倒産とわかっていながら、その寸前に借金をして夜逃げすれば、立派な詐欺罪だ。訴えてやる」と凄まじい剣幕である。Nさんは平謝りに謝り、しばらく待ってほしいと訴えた。と、オーナーが「それなら、うちの東京チェーンの寮に住み込んで、レストランの皿洗いをしながら借金を返せ」ということになり、Nさんは拉致も同然にオーナーともども東京へ向かった。 -
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筆者紹介
野口 誠一
八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。 わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。
平成28年2月18日 東京都内の病院にて逝去、享年85歳。
HP:https://yaokikai.com -
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