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    東京大学先端科学技術研究センター 西成教授 「今後必要な物流改革」

    2021年1月21日

     
     
     

    社会環境が大きく変化しているなか、社会インフラとしての物流も新たな仕組みを取り入れるための改革が待ったなしの状況となっている。渋滞学の第一人者で、物流システムにも詳しい東京大学先端科学技術研究センター(神崎亮平所長、東京都目黒区)の西成活裕教授に、2021年の物流への取り組みや新たな仕組みを取り入れていくために必要な物流改革について話を聞いた。

    ―昨年は、新型コロナウイルス感染症で、働き方や生活様式が変化するなど、これまでに経験したことのない1年となりました。物流はこれまで、いろいろな課題を抱えてきましたが、コロナ禍において、特に解決しなければならない課題は何だと思われますか。

    国内の物流は、簡単なものから絶望的なくらい難しいものまで、たくさんの課題を抱えています。そのなかでも、直ぐに解決すべきだと考えている物流の課題は「過剰サービス」と「納期」です。

    「過剰サービス」は、お客さん相手もそうですが、サプライチェーンの中においても「そんなにやらなくても良いだろう」というくらいに検品を何度も行っており、それによって現場がどんどん疲弊しています。「過剰サービス」については見直していくように、私たちのような事業者ではない立場の人間が声を上げていく必要があると考えています。

    また、「納期」は、「翌日に届ける」から「N+2」の翌々日配送にすることで、ドライバー不足などいろいろな問題が一気に解決しやすくなるのです。そこで、消費者にはコロナの状況だから仕方ないと思ってもらえるように上手く世論を動かして、これまでの当たり前のサービスを見直すことができればと考えています。

    ―物流が抱える課題は多く、解決することは簡単なことではないと思いますが、旧態依然のままでは将来の希望がなく、厳しい状況になるばかりだと思うのですが。

    物流には他にも標準化やデジタル化など解決すべき課題が多いと思いますが、先ほど述べた「過剰サービス」は全ての課題に通じる本丸の一つだと私は思っています。この課題を解決するためには業界全体で一斉に取り組まなければなりません。抜け駆けする事業者が1社でもあるとダメで、まさにナッシュ均衡(自分一人だけ戦略を変えても利得が増えない状態)に陥っている状態です。

    みんなでやればできることなのですが、物流はナッシュ均衡に陥っているので、これを実現していくためには、どこかがリーダーとなって音頭をとらなければならない。例えば大手がリーダーになって、皆で話しあっていくということを、待ったなしでやらなければならない状況だと思っています。

    ―昨年の4月から、東京大学工学系大学院生に向けた講義を通じ、高度物流人材の育成のための教育を本格的に開始されましたが、いろいろなことを成し遂げるために人材を育てることも大きな課題だと思います。

    課題解決に取り組んでいくためには、高度な物流人材が必要ですが、多くの物流会社にはその高度な物流人材がいないということが問題だと感じていました。東大には、能力の高い人材がたくさんいますが、彼らは金融やコンサルティングといった華やかな業界にいってしまうので、これまで東大から物流業界に行った人はほとんどいません。

    こうした流れを変えたいという思いがあって、ヤマトホールディングス(長尾裕社長、東京都中央区)、SBSホールディングス(鎌田正彦社長、同墨田区)、鈴与(鈴木健一郎社長、静岡県静岡市)の3社の協力で2019年7月、東京大学先端科学技術研究センターに先端物流科学寄附研究部門を設置することができました。

    設置から1年続いていますが、東大にも物流ベンチャーをやりたいという学生が現れるようになり、高度物流人材育成のための講義は毎回、大人気授業となっていて、大学院の授業で受講者が毎回100人を超える授業はほかにないのですが、そのような状況がずっと続いています。

    物流はこれまで、ど根性と体育会系のノリで乗り切って来た部分があります。それも人手不足によって乗り切ることが難しくなっています。

    そうなると、もう少し知恵を使った方が良いわけで、学生に物流の課題を出したところ、どんどんアイデアを出してきまして、これまで勉強してきた知識をフル活用しています。物流と数学はものすごく相性が良いのです。

    ―コロナの影響で今後、物流はどのような形に変わっていくべきか。また、どのような準備をしていくべきか。

    物流というのはこれまで競争領域として認識していたかもしれませんが、もっと協調領域を増やしていかなければならないと思います。1社で大きな困難に対応するという時代は終わりで、限界に達しているのです。

    コロナをきっかけに半強制的ではありますが、人手不足に対応する意味で協調が進んでおり、コロナによる強制力はいろいろなことを変えることができる大きなチャンスとなっています。

    もちろん競争領域はビジネスの源泉ですから、それはうまく確保しつつ、困ったときにはみんなで協調していく状況を平時から作っておくことです。利害を超えた協調こそが危機対応の一丁目一番地だと思っています。

    ―協調に向かって動き出すために、中小規模の一般的な会社ではどのような事からはじめれば良いでしょうか。

    ドイツの例ですが、トラック業界は小さな会社が多くあり、大手のDHLはそこに自らの予算でシステムを投資し、多くのトラックの情報をつなぎました。それによって、マッチングや配車、求荷求車など、そういったことが進んでいます。このように、大きな会社が中小規模の会社に投資することで、協調しやすくなりますし、自分も含めて皆にメリットがあるのです。

    ―2021年の物流は、どのようなことに取り組むべきだと思いますか。

    私は今年がコロナの影響もあって、物流の本格的なDX元年だと考えており、デジタル化への産業革命が起こっている真っ只中だと思っています。今そこに乗り換えていかなければ、産業革命で死に絶えていく。これは歴史が物語っている事実なのです。

    かつて機械化への産業革命が起こった時に、手工業の職人や労働者の機械打ち壊し運動が起こりました。これをラッダイト運動といいますが、ラッダイト運動の現代版がこれから起こるかも知れませんが、それは歴史を見てわかるように一時的なもので結局淘汰されていくのです。

    デジタル化を行うことで圧倒的に効率が良くなり、安くできるうえに、サービスも向上する。そうなれば利用者に選ばれるようになるため、逆にデジタル化を行わなければ選ばれなくなります。デジタル化を実現するためには経営者の意識改革も必要で、それを後押ししてくれるのがコロナの強制力だと思っています。

    データというエビデンスの力、デジタルの力というのはもの凄く大きいのです。まずは会社でいろいろなデータを取ることからはじめてみるとわかります。それをやることで一気に経営も変わると思います。今年は意識を変えていくためのDX元年、海外勢に負けないように物流革命を推進していければと思います。

    西成活裕(にしなり かつひろ)、東京大学先端科学技術センター教授。

    専門分野は数理物理学、渋滞学。著作は、「渋滞学」(新潮選書)、「無駄学」(同)、「誤解学」(同) など。


    1967年東京都生まれ。
    1995年東京大学工学系研究科博士課程修了
    2009年東京大学大学院工学系研究科教授
    2009年東京大学先端科学技術研究センター教授

     
     
     
     

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