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物流ニュース
最低賃金が過去最高の上げ幅に 運送事業者にさらなる負担増か
2022年8月30日
8月2日に開催された第64回中央最低賃金審議会で、今年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申が取りまとめられた。全国加重平均の上昇額は31円 (昨年度は28円)となり、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額となる。引き上げ率に換算すると3.3%(昨年度は3.1%)となる。消費者物価の上昇が急激に進んでいることもあり、引き上げ額がこれまでで最も高くなった形だが、燃料価格の高騰やコロナ禍における荷動きの停滞に長く苦しんでいる中小運送事業者にとっては、さらなる負担増につながると不安視する声も聞かれる。
最低賃金は、都道府県の経済実態に応じてABCDの4ランクに分けて引き上げ額の目安を提示されており、今回はA・Bランクで31円、C・Dランクで30円の引き上げとなる。目安通りに上がれば、最高は東京都の1072円、最低は沖縄、高知両県の850円となる。東京、神奈川県(1071円)に続き、大阪府でも1023円となり1000円を超える。
過去最大の上げ幅となったことについて、日本労働組合総連合会(連合)の清水秀行事務局長は「本年度の目安は、現下の情勢をしっかりと踏まえ公労使三者が真摯に議論を尽くした結果と受け止める。また、過去最高となる目安の水準については、最低賃金付近で働く者の労働条件改善に資するものと評価したい」とコメント。さらに、「労働側の主張は一定受け入れられ、連合がめざす『誰もが時給1000円』に一歩前進する目安が示された。ただし、依然としてナショナルミニマム水準として十分とは言えず、今後もさらなる、かつ継続的な引き上げが必要である」と訴えている。
しかし、長引く燃料価格の高止まりやコロナ感染再拡大の影響が懸念される運送業界にとって、今回の引き上げは非常に厳しい結果になったと言える。日本商工会議所では今年2月に、中小企業6007社を対象に「最低賃金の引き上げの影響」について調査を実施したが、運輸業(141社)は、約3割が「最低賃金を下回ったため最低賃金額まで賃金を引き上げた」、約2割が「最低賃金を下回ったため最低賃金額を超えて賃金を引き上げた」と回答。さらに、約8割が現在の最低賃金額が「負担になっている」と回答しており、昨年よりもさらに上げ幅が上昇した今年の引き上げは、多くの事業者にとってさらなる負担増となりそうだ。
また、日当制で給与を支払っていて、残業代などを反映していない事業者は、最低賃金の引き上げを把握していないことで最低賃金違反につながるケースもあるので注意が必要だ。来年4月1日からは中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、25%から50%に引き上げられることもあり、給与制度に不安を抱える事業者は早めの対策が求められる。
厚労省では、最低賃金引き上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業として、「業務改善助成金」制度を設けている。これは、生産性向上のための設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成するというもの。事業場規模が100人以下で、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内、生産性向上に資する機器・設備やコンサルを導入してその費用を支払うことなどを条件に、引き上げ額や引き上げる労働者数によって、助成上限額が30万円から最大600万円まで助成される。
厚労省の賃金課に話を聞くと、「これまでの運送事業者の事例では、設備投資として最も多いのが『フォークリフトの導入』であり、手作業で荷物の積み下ろしをしていたため時間がかかっていたものを改善させる目的で導入されている。その他、倉庫管理のシステムや電動カートを導入したという事例もある」と説明。
また「最低賃金の引き上げが始まる10月に合わせ8、9月に申請が集中する傾向にあり、早めに計画を立てて労働局と相談して取り組みをスタートさせていただければ。令和4年度の申請締切は来年1月31日だが、助成金は予算の範囲内で交付するため、上限に達したら申請期間内に募集を終了する場合がある」と、早めの申請を呼び掛けている。
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