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    運賃 国が介入しない理由、タクシーとの比較

    2016年2月12日

     
     
     

     トラック運送業の99%を占める中小企業の多くが、荷主と交渉できるだけの競争力を持たないままに規制緩和が進んだ。経済の動向で多少の浮き沈みはあるものの、運賃は依然として低水準のままで、「かつては良かった」とタリフの復活を願う声、最低運賃制度を求める声も挙がる。望ましい運賃体系とは何か、公定運賃制度を導入しているタクシー業界と比較しながら考えてみたい。
     国交省によると、1990年のトラック運送事業者数は3万9555。2014年は、2万2350増の6万2905。規制緩和による供給者の急増で市場競争が激化し、物流コストの低下が進んだことは言うまでもなく、全産業より労働時間が長く、年収が低いという体質は常態化しつつある。
     一方、タクシー業界は90年以降、長期的な不況で利用者は減少したものの、リストラなどでドライバー数が増加。1台あたりの売り上げは減少し、企業は台数を増やすことで、まかなおうとした。しかし、歩合制が中心のタクシー業で、ドライバーの手取りはどんどん減少。そこで行政は、2009年10月にタクシー適正化・活性化特措法(旧タクシー特措法)を施行し、過当競争の激しい地域で初乗り運賃を引き上げるなどの規制を強化。14年1月には改正タクシー特措法を施行、同年4月に公定幅運賃制度が導入された。


     タクシーとトラックを比較すると、状況が似通っているように見える。しかし、なぜ規制緩和で過当競争となったタクシーには国が介入し、トラックには同様の措置がなされなかったのか。
     交通経済学に精通する東京女子大学現代教養学部教授の竹内健蔵氏によれば、「経済学では、完全競争市場において市場の力で決まった価格は資源の最適な配分をもたらし、それによって社会全体の幸せの総量が最大になる」という。「運賃を規制すると、経営努力のインセンティブがなくなってしまうので、企業がサービス向上の努力をする意欲がくじかれる。企業のイノベーションを阻害し、市場全体を沈滞化させる」と説明。
     完全競争市場となるには、「財の同質性」「多数の生産者・消費者の存在」「情報の完全性」「参入・退出の自由」の四つの基本条件を満たす必要がある。まず、取引される商品が他社の提供する商品と区別がつかないという「財の同質性」がある。タクシーに乗るのは人間なので、サービスの違いを認知しやすい。トラックの場合、荷主は価格の安さを重視し、「運ぶ」という行為がなされればよく、サービスの品質が問われにくい。
     「多数の生産者・供給者の存在」では、国交省の統計(14年3月末現在)によれば、法人タクシーは6456社、19万2736台に対し、営業トラックは6万2905社、124万7024台と圧倒的に多いことがわかる。「供給者が多ければ、それだけ競争が激しくなる」という。
     国の規制がある分、タクシーの運賃は広く世の中に公表されているが、トラック事業者が「荷主といくらで取引した」ことを公表する制度はなく、情報の不透明性が後者には残る。また、事故発生時の被害の大きさを考えると、タクシーは「対人」、トラックは「対物」で、「対人」の方がより厳しく規制されやすい。
     これらを理由に「トラックの方が、より完全競争に近い」とした。トラック運送業の運賃について「最低運賃や公定運賃が定められていたことはあるが、実際には守られることがなく、実態と大きな乖離があった」と指摘。「制度はあっても激しい価格競争が繰り広げられていた。再度、制度を作っても同じことが繰り返される可能性がある」。さらに「最低運賃や公定運賃を定め、それを守らせることにエネルギーを費やすよりも、値崩れの原因を作っている荷主に対する価格交渉力の弱さへの対策のためにエネルギーを費やす方が生産的である」と主張する。
     国の役割について「市場のルールを定め、公正な競争が出来るようにする良好な競争環境の整備であって、その上で決まった競争の勝敗に介入することはいけない」と考える。「事業者数が規制されるのは、安全規制や労働条件という最低限のルールを守らない事業者を厳格な審査で排除することによるべきであって、競争の結果として出てきた事業者数に介入するのは好ましくない」ということだ。

     
     
     
     

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