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物流ニュース
過剰サービス蔓延 高まるニーズで現場に負担
2016年12月16日
公共の道路を利用しているだけに、ひとたび重大事故を起こすとマスコミの格好の標的になりやすいトラック運送業。しかし、トラック業界だけでなく、電車の運転士や飛行機の操縦士の問題行動が、今年に入り相次いで、メディアで報道されるようになった。いずれの業界でも、問題の背景には人材不足と業務の多様化、さらにはサービスの提供側と受け手のアンバランスな関係が隠されているようだ。
鉄道業界では今年9月、50代の電車運転士が停車中の電車の運転席のドアを開け、線路へ放尿していたことが明らかとなり、問題となった。輸送指令室に連絡すれば駅や車内のトイレを利用することは認められているが、その停車駅での停車時間は約1分で、「遅れてはいけない」という恐怖から、このような行動となったとみられている。トラック運送業でも、荷主企業の構内でドライバーが用を足したことで、荷主から一切の仕事を切られるという実際に起こった事例があるが、鉄道業界で同様のことが起こっていた。
「この車掌に同情する」と話すのは、大阪府のトラック運送事業者社長。「遅れてはいけないという責任感とクレームへの恐怖観念から、休憩時間を取らないドライバーもいる。労働局の監督が厳しくなっているので、適切に休憩するようには伝えているが、『荷主に言われたから』と無理をするドライバーが多いのは確か」とこぼしていた。
2005年に起きたJR福知山線脱線事故では、列車遅延の処分を恐れた運転士が速度を出しすぎたことが原因の一つとされている。荷主企業からの無理難題・圧力が事故・トラブルの遠因となっている事実は、トラック運送業でも見受けられる。
一方で、花形の職業と言われている航空業界では人材不足の中、質の低下などが懸念されている。大手航空会社の運航規程では、乗務開始前12時間は飲酒禁止というルールがある。しかし今年6月、このルールを破った副操縦士が泥酔して人を殴ったことで、乗務予定だった便が欠航になるという不祥事が起こっている。逮捕された副操縦士は過去にも飲酒によるトラブルを起こしており、管理体制のずさんさが指摘されている。
航空業界は2000年代後半のLCCの登場、パイロットになるための厳しい条件や、日本の航空会社の正社員主義などが影響し、人材不足の状態が続いている。年収は高騰し続け、中には年収4000万円を約束した上での引き抜きもあるという。国交省は昨年、パイロットの年齢制限を引き上げたが、高齢化が進むと、どうしても事故のリスクが懸念される。パイロットの場合は厳しい身体検査があるが、タクシーやトラックのドライバーには健康診断以外にそれほど厳格な検査はない。トラック運送業で、人材確保と質でバランスをとるのは難しいといえるのではないだろうか。
人材不足に加え、運送をはじめとする保育や介護などのサービス業は近年、顧客からの過度な期待・要望に応えなければならないという風潮がある。その影響で業務は多様化し、ミスをしてインターネットにあげられると大きく広まってしまう。
滋賀県のトラック運送事業者は「適正な運賃に値するサービスで十分なのではないか。対価を払わないのに過剰に求めてくる風潮にはうんざりする。トラック運送業も、顧客を甘やかしすぎているのでは」と持論を話していた。
荷主はコストを下げようと効率化を求める。しかし事業者側からすると、薄利や人材不足の中で、すべてには対応しきれないジレンマがある。顧客ニーズの過剰な高まりが、現場に負担を強いているのも確かだ。さらにクレームを恐れるあまりの行動が、さらなるクレームを生むことも考えられる。
サービスニーズの分岐点ともいえる境界線が曖昧になりつつある今、境界線の引き直しが求められる。この記事へのコメント
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