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物流ニュース
大型施設の防災・減災とBCP
2017年5月16日
政府の地震調査委員会は1月、南海トラフ地震発生確率が「10年以内に20~30%」と発表した。物流業界でも日本物流団体連合会や日本倉庫協会をはじめ各団体でも「BCP(事業継続計画書)」の作成を会員に促し、有事の際、いかにスピーディに物流を回復させるか、各社に対策の策定を勧めている。そんな今、大手企業は続々と物流センターなど、大型施設を新設。これらの防災・減災機能について調べてみた。
地震大国と呼ばれる日本。免震にこだわり、大型物流センターを全国各地に建設している大和ハウス工業の浦川竜哉常務は、「日本で防災としてまず思い浮かべるのは、やはり地震対策でしょう。現在では大きく免震、耐震、制震の3種類があるが、制震というのは高いビルなどが振り子のように揺れるのを抑える構造。一般住宅や物流などの大型施設では、まだ耐震が圧倒的に多いのが現状だが、これは免震構造の方が工期などで時間がかかるという理由もある」と話す。
しかし、「当社では、それでも、すべての建物に免震を取り入れる必要があると考えている」と述べ、「大和ハウス工業が初めて免震構造を取り入れたのは2010年に完成した高島平の大型施設。完成の半年後に東日本大震災が発生したが、地震が落ち着いた後、すぐに出荷できたのはその倉庫だけで、消費者からの需要が一気に集中し、それを機に顧客も増加したと聞いている」と説明。
「物流センターの場合、恐れる災害は地震と台風などによる洪水、突風、それと火災でしょう。特に南海トラフなど大きな地震発生予測も高くなっているので、出来る限りの対策は必需だろうと思っている」と浦川常務。「大型施設の場合、耐震と免震では、免震の方が、ライフコストが倍くらい良いこともある」とも。免震は建設時に経費も多くかかってしまうのだが、免震ゴムの寿命は60~80年劣化しないとの結果があり、メンテナンスは必要だが、施設の供用期間中のゴムの取り替えは不要と言われるからだ。
耐震は字のごとく、土壌の揺れに耐え得る頑丈な構造であるが、免震は建物そのものを揺れる土壌に密着させず、免震装置の上に建てるシステム。日本免震構造協会(東京都渋谷区)では、「日本で初めて免震構造が導入されたのは1983年の住宅建築。1995年に発生した阪神淡路大震災で、免震構造の建物のダメージが少なかったことで注目され始めた」と話し、「免震と呼ぶためには①支持機能②絶縁機能③減衰機能④復元機能の4つの機能を併せ持っていなければいけない」と説明。
構造では大きくゴム式とダンパー式があるが、「主流として多く使われているゴムは、性質として減衰以外の三つの機能を持っている。さらには、ゴムの縦横の使い方を工夫すれば減衰機能をもクリアできる」という。そして「ゴムしか使わないで済むならコストも抑えられる」と述べる。それでも耐震に比べ免震は工期、経費ともに若干かさんでしまうのだが、大和ハウス工業が進めるDプロジェクトによる大型物流センターをはじめ、7月に竣工予定である東京流通センターの物流ビル新B棟、グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(GLP)、プロロジスなど、大手企業が手掛ける物流施設では免震構造の導入が進んでいる。その他にも非常用電源の設置や停電時の給水確保など、BCPを意識した造りになっている。先般のアスクルの倉庫火事のように最新の倉庫でありながら、想定外の被害をだしてしまう例もある。原因の詳細は、いずれ明らかになるだろうが、構造うんぬんより「正しい運営がベースにあってこその機能」との声も多い。
免震しかり、有事にあって建物が最少のダメージで済んだのであれば、その後、スムーズな事業復帰をさせるのは人間の運営力。建築物の強さだけに頼らず、しっかりとしたBCP対策を組み、万が一に備えたいものである。この記事へのコメント
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