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物流ニュース
経営者を育む「面貸し」 美容業界の例に見る
2018年5月15日
どこかトラック運送事業の名義貸し、いや個人償却制度に似た印象を受ける。美容師の世界に広く浸透しているという「面貸し」の話だ。店のオーナーと業務上の契約を交わし、どこにも所属しないフリーランスの美容師が店舗の一部を間借りする格好で〝個人経営〟をスタートさせるビジネスのスタイルは、かつて起業率の優等生といわれたこともあるトラック業界でも会社経営の感覚を育むステップとして、ごく自然に採用されてきた側面がある。
トラック事業における名義貸しは明らかな違法行為だが、かねて微妙な立ち位置にあるのが個人償却制度だ。美容師の業界と単純に比較するのは乱暴だが、1人で起業して法人経営のイメージを身に付けていく段階と考えれば、美容業界で認知される仕組みと似た部分は意外に少なくない。
大阪市の美容室で面貸しのスタイリストとして生計を立てる原田美樹さん(仮名=27歳)は、「自分で店を持つための資金を稼ぎ、経営の感覚もつかみたい」と昨年、それまで正社員として勤めたサロンを退社。阪神地区に複数の店舗を構えるオーナーと交わした業務委託契約書には30項目ほどの細かな取り決めが記されているが、フリーランスの立場として気になるのは収入に関する条件だ。
「出勤日は自由」「2か月出勤がない場合は契約破棄と見なす」といった基本ルールに始まり、社員スタイリストらと同様の接客態度を求める記述も並ぶ。肝心の〝取り分〟については明快で「売り上げの62%を還元」。故障が少なくないドライヤーなどの電気製品は本人の持ち込みとなるものの、そのほかの備品やカラー剤などはタダで使い放題。働く側にとって収入を計算しやすい仕組みに映る。
美容師は国家試験に基づく美容師免許が必要な職種という点、社会に大きなダメージを与える重大事故のリスクがない点でトラック事業と異質のビジネスであることは間違いない。ただ、起業をめざすという視点でいえば国家資格である運行管理者が必要なこと、さらに近年の運転免許改正によって普通免許では乗務できないスペシャリストの要素が生まれてきたのも確かだ。
契約書に「店の備品を破損した場合は本人に請求」「お客とのトラブルに店は一切の責任を負わない」という記載があるが、これも契約の趣旨からすれば当然だ。ドライバーに置き換えれば任意保険の免責負担や、25%の範囲内で車両損害などの弁償を取り決めるほか、償却制度の場合は一段と厳しい条件を敷くケースも少なくない。
平成2年の規制緩和で新規参入組が雪崩れ込んだトラック業界は一時、起業・開業率の優等生といわれたことがある。閉塞感が漂う現状とは結び付かないイメージもあるが、親族に美容師がいるという岡山市のトラック経営者は「起業するには5台が必要という中途半端な規制が問題。いつしか3台に減車してしまうケースが全国に相当数あるが、同じ3台でも1台からスタートして増車したのとは意味が違う」と、経営感覚を養える点で面貸しのスタイルを評価する。
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