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物流ニュース
東京オリンピック景気の裏で… 大きな経済損失も
2018年6月25日
2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催される。この世界的なイベントの開催国は一般的に景気が良くなるといわれている。東京都のオリンピック・パラリンピック準備局が17年3月にまとめた資料によると、経済波及効果は東京都で約20兆円、全国では約32兆円と試算されている。だがその裏で、大きな経済損失が出ることも明らかになって来た。
オリンピック開催で、大きな被害を受けるのが展示会。当然、展示会は会場がなければ行うことができない。日本では年間600本の展示会(見本市)が行われており、そのうち半分の300本が東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されている。
この東京ビッグサイトがオリンピック・パラリンピックの開催期間中はメディアセンターとなるため、約7割を占める東展示棟(6万7260平方m)が20か月間にわたり閉鎖され、西展示場(2万9280平方m)や建設中の南展示棟(2万平方m)も5か月間閉鎖される。その間、247本相当の展示会が中止となり、中小企業をはじめ8万2000社の出展者が2兆2000億円の売り上げを失い、物流事業者などの支援企業も2400億円相当の売り上げを失うという試算が出ている。
日本展示会協会(石積忠夫会長、同千代田区)の国内広報委員会で委員を務める田中嘉一氏は「世界でも自由経済の国では、展示会で商売することの重要性が認識されている」とし、「展示会の価値は規模にあるため、世界中の展示会場が巨大化しているのがトレンドとなっている」という。2017年時点で、世界最大の展示会場は、ドイツのハノーバーで46万6000平方m。2番目は中国の上海で40万4000平方m、日本は9万7000平方mの東京ビッグサイトが77番目の規模で、10万平方m以上は71か所もある。
国別で比較すると、日本の展示会場の合計展示面積は37万平方mしかなく、国土面積が同じくらいのドイツで約10倍の323万平方m、中国は約15倍の576万平方m、日本よりも国土面積が小さいヨーロッパ各国でさえ、日本より大きな展示場面積を持っている。アジア諸国でも近年、展示会場の建設を積極的に進め、韓国も来年には日本を抜くほどの展示場面積となる。
田中委員は「バブル崩壊以降、展示会で商売を行うという流れが日本にも少しずつ広まり、活況を呈し始めてきたところに、今回の問題が起きた」として、「出展者の多くが営業力のない中小企業なので、お客の方から訪ねてきてくれる展示会が命綱となっている」と話す。「展示会は、各産業の活性化という役割を担っている。出展企業は展示会に合わせて新製品の発表や新規顧客獲得を行う。その場所がなくなれば、確実に業界の活性化やイノベーションが止まり、大きな経済損失となる」日展協では被害を最小化するため、都にビッグサイトの閉鎖期間短縮や仮設展示場の改善のほか、出展者などへの営業保証や無利子融資といった救済策を求めていく。さらに、中長期的には、展示会場の増設や新設を訴えていく考えだ。
イベントや展示会のブース企画から施工、事務局運営までを行うボックス・ワン(豊田悦夫社長、同江戸川区)。同社の事業の9割が展示会で、そのうちの4割をビッグサイトが占めているが、オリンピックで展示会が開催できなくなることに対して、豊田社長は「売り上げで2割減から3割減になるのではないか」とみている。「国内の他の大きな展示会場も空きがないので、規模を縮小して地方で行うか、1年間休むところも出てくる」と、被害を抑える対策に頭を悩ませる。同社はディスプレイ業界で中堅規模であるため、展示会のほかにも商業施設でのイベントなどの仕事で被害を抑える余地がある。だが、同業界の9割近くが中小・零細で展示会に依存している企業も多く、そのほとんどが倒産する可能性があるという。豊田社長は「オリンピックは歓迎するが、ビッグサイトがメディアセンターとして使われることになった経緯と釈明がないことが問題だ。展示会の主催者や出展者に、早い段階で相談がないのは納得できない」と怒りを隠さない。「都やビッグサイトには、展示会が経済にどれほど重要で価値のあるものかを認識してもらう必要がある」としたうえで、「展示会産業に力を入れなければ、日本経済にとって大きな損失になりかねない」としている。
イベントや展示会の輸送をメインに事業を行っているミユキトランスポート(同江東区)の雁部秀幸社長は「ビッグサイトで展示会が行われない期間中は、弊社だけでも月平均で1500台が減り、売り上げも月に3000万円近く減少するのではないか」と予測。また、「弊社の利用者は全国で展示会をやっているので、仕事自体はなくならない。オリンピック期間中、イベント・展示会での輸送が減っても、ほかの輸送にも需要があるで、そこでカバーすることになる」と、オリンピックによる展示会への影響は現時点で、そこまで大きな問題とは考えておらず、イベント・展示会輸送に関しては今後ますます、需要が高まるとしている。
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