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物流ニュース
筋トレで健康経営 仕事面への波及効果
2019年1月31日
働き方改革や人材不足の課題を抱える運送業界にとって、生産性の向上や自社のブランディングに労働環境の改善など、その方策は多岐に渡る。中でも健康経営に代表されるヘルスケアへの関心は、この半年ほどで急速な高まりを見せており、暁興産(伊藤康彦社長、三重県三重郡川越町)のように社内トレーニングジムを設ける事業者も増えてきた。「筋トレ」と聞いて何を連想するだろうか。「肉体改造」「美容効果」「ダイエット」などが一般的と思われるが、本格的なトレーニングを取り入れている実践者に話を聞くと、多くの場合、その限りではないことに気付かされる。
日頃からトレーニングを取り入れているという三ト協の紀藤智憲氏との会話でのこと。同氏の口から肉体面だけに限定されない筋トレのメンタル面での効果を聞き及んだ記者は、すぐにある人物を思い出した。愛知県弥富市でユニック車に特化した輸送サービスを展開する松本産業の松本成士社長だ。松本社長は自身の著書の中でも告白している通り、かつて重度のうつと診断され、闘病生活を送った経験を持つ。
それは、さかのぼること4年ほど前、社長が51歳の時のことだった。「不眠」から始まった自覚症状は徐々に深刻度を増しながら進行。社長から気力と体力を奪い、ついには「死ななければならない」との強迫観念に襲われるようになった。「とにかくもがいた」という入院も伴った闘病生活は壮絶を極め、その後の復帰までは3年という月日を費やすこととなる。好不調の波の中で時折は自社に顔を出していた社長は闘病中のある日、そこで保険の営業マン、A氏と久々に再会し、転機を迎えることとなる。
良い意味で以前とは雰囲気が違っていたというA氏に、その理由を尋ねたところ、トレーニングジムの効果であるとの回答を得た松本社長。「改善の可能性があることは、なんでも試そうと思っていた」との思いから挑戦を決意すると、「これは気分が良いと思った」と、すぐさま効果を実感。その後はトレーニングに邁進し、症状は劇的に改善されていった。
「今思えば、その営業マンからポジティブな空気が漂っていたのかもしれない」と社長はA氏との再会を振り返るが、回復を求めて必死にもがいて見せたその諦めない姿勢が、松本社長を筋トレという「特効薬」との出会いに導いたのかもしれない。「現在、心の病で苦しんでいる人がいれば、私の体験が、お役に立てればうれしい」とも語ってくれた松本社長。デリケートな自身の体験について、快く取材に応じてくれた社長には、感謝を述べると共に、敬意を表したい思いだ。
筋トレといえば、三重県に忘れてはならない社長がいる。ヤマト(津市)の藤本善一社長、その人だ。ベンチプレス競技で名を知られる藤本社長は、2018年の全日本実業団ベンチプレス大会40代の部で優勝を飾るなど、実力は今や折り紙つき。業界のイメージ向上を訴える立場からも、自身のような競技に取り組む運送業界の人間の姿を世間に広く周知してもらうことで、そのイメージを変えていければとも考えている。
また、トレーニングが及ぼす業務上のメリットについては健康促進による病欠の減少を挙げており、欠員による営業的な損失は昨今の健康経営の理念の中でも指摘されている通りそのリスクの低減は事業者にとっては取り組むべき重要課題だ。他にも社長は「継続が大切」「筋肉に年齢は関係ない」「やればやっただけの結果は必ず出る」と筋トレの魅力を熱弁。「運送業の経営者には格好良くあってほしい」との考えからも筋トレの導入を推奨しているが、それは決して理想論に留まるものではなく、やがて、そんな動きが業界に人を集める呼び水になるのでは、との期待も込められている。
労働環境の改善が進んでいるとはいえ、やはりドライバーという職業は体力仕事。日頃からの健康管理が特に求められる立場であることから、心身を含めた体づくりへの向上心が仕事を支える。昨今、事業者間で広がりを見せている社内トレーニングジムの設置も、その一環であることに違いないが、そこには波及効果の内包にも意識を巡らせるべきであろう。
朝日大学(岐阜県)で相撲部の指導も行っている三星運輸(大垣市)の高橋重人社長もトレーニングについて、相撲を含めた日本古来の武道の観点から「肉体もさることながら、その本質は精神面の鍛錬にある」と語り、また仏教の世界では「心身」は「身心」とも表現し、まずは「体ありき」の考えを説いていることからも、「健全な精神は健全な肉体に宿る」を教訓に、身心の安定が不可欠なドライバーを含めた運送業界の人間は、覚えておく必要があると強調する。
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