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物流ニュース
カーナビの受信契約判決 トラック業界に波紋、新たな負担の恐れ
2019年5月30日
テレビ視聴が可能なワンセグ機能付きのカーナビ(ワンセグカーナビ)についての受信契約を求めていたNHK(上田良一会長、東京都渋谷区)と栃木県内の女性との裁判。ワンセグカーナビが「(交通案内のためであっても)放送を受信する目的がないとは認められない」などとした今月15日の東京地裁の判決に、トラック運送業界でも波紋が起きている。法規に基づいた「適正な契約」(NHK)を全トラック事業者が結べば、全国に約140万台ある緑ナンバートラックだけで年間数十億円の新たな負担が発生する恐れがあるためだ。このまま放置すると「隠れ債務のような状態になる」(トラック運送事業者)として、制度見直しの必要性を訴えていくべきとの指摘も上がる。
2年前、NHKの兵庫県内の営業センターから封書を受取った、県内のトラック運送事業者。「常識的に考えて、カーナビに受信料など払えるものか、と言えたのが2年前。受信そのものが目的でなくても契約をしなければならないという判決が出ては、そうも言えなくなる」。今後のNHKの出方が気になるという。
「放送受信契約適正化のお願い」—。2年前の封書には、そうした表題の書面が入っていた。書面には、「事業所などに設置するテレビの放送受信契約の状況について、国会や会計検査院から指摘を受けた」などといった内容があった。
同封の「テレビ等受信機設置状況調査票」の書面は、事務室、会議室、休憩室など事業所内の部屋ごとにテレビが何台あるかを記載する一覧表になっていた。その中には「業務用車両(テレビ付きカーナビ)」の台数を記載する欄もあり、別の用紙には「営業車などに搭載のテレビ付きナビゲーション(カーナビ)も契約の対象になります」とあり、受信契約の必要性が明記されていた。
総務大臣が認可したNHKの「放送受信規約」は事業所内の受信機設置について、「受信機の設置場所ごと」(規約2条2項)の契約を求める。さらに設置場所については、「部屋、自動車またはこれらに準ずるもの」(同2条4項)と定められる。つまり、他の空間と仕切られた場所に「受信設備を設置した者」(ここでは事業者、放送法64条)に契約義務が生じると読める。
前出の事業者はこうした事情も踏まえながら、トラックのワンセグカーナビに関して、「従業員が取り付けているかどうかは把握していない」など、会社では取り付けていないと回答。訪問日まで設定されていた封書だったが、それ以降はNHK側からの連絡はないという。
同県では2年前、複数のトラック運送事業者に同様の封筒が届けられたが、トラック1台ごとの契約にいたった事業者は確認されていない。もっとも、役所など公的機関では、ワンセグカーナビに受信料をすでに支払っている組織が確認されている。
農水省では9年前、地方農政局など全国46の部局に配置する業務用車両のうち、1217台にワンセグカーナビが取り付けられ、2年間で732台分の受信料計547万円の、本来必要のない受信料を払っていたとの指摘を、会計検査院から受けている。1217台の業務用車両のうち1台を除いては、業務中にテレビを視聴する必要のない車両だったという。指摘を受けた農水省は、ワンセグカーナビのテレビ受信機能を無効にするなどして受信契約を見直し、会計検査院によるとNHKも農水省の措置に応じたという。
受信料の払いすぎで逆にワンセグカーナビに受信料を払っていたことが発覚した同様の事案は、「かんぽ生命」でも確認されている。
事業所による受信契約の場合、NHKの「事業所割引規定」は、仮に事務所にテレビが1台ある場合、2台目以降の受信機の受信料単価を655円(地上契約、月額、沖縄県を除く)と定める。15台のトラックにワンセグカーナビが搭載される場合、トラック分だけで年間11万7900円。ちょっとした「税金」のような額だ。
こうした想定のもと、全国に140万台あるとされる緑ナンバートラックの半数にワンセグカーナビがついていると仮定すると、「適正な契約」を結べば55億円を超える受信料がNHKに転がり込む。一つの民事訴訟判決がもたらす影響としては大きすぎないか。
2年前にNHKから書面を受け取ったトラック事業者は口々に、「『ワンセグカーナビはない』と、書面にウソを書くのもいやだが、本当のことを書いて常識外の受信料を請求されるのも困る」と話す。「ワンセグ機能が付いていないカーナビを探すほうが困難」(トラック事業者)な国内カーナビ市場で、業務支援のために導入するカーナビ。たまたまテレビが見えてしまう状態だからといって、なぜユーザーであるトラック事業者がびくつかなければならないのか。
ワンセグ機能のないカーナビを市場に増やすよう、メーカーに圧力をかけるか、もしくは運行支援のワンセグカーナビの場合は放送法規の枠外に置くよう制度改正を求める必要があると考えるのは、筆者だけではないだろう。
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