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物流ニュース
賠償保険、監査対象外に 保有台数100台区切りに
2020年1月23日
1年前に改定された貨物自動車運送事業法のなかに「トラック事業の適確な遂行」(法24条の4)能力の一つと明確に位置づけられた損害賠償能力について、保有トラックが100台以下のトラック事業者だけに保険加入を義務付ける内容の通達を、国交省貨物課が各地の運輸局に宛てて出していたことが分かった。保有が100台を超えるトラック事業者の損害賠償能力については同通達のなかに言及はなく、同課担当者は、「101台以上の事業者は損害賠償の支払い能力がある」と推定的な説明をするに留まっている。企業の社会的責任と解釈できる損害賠償能力の有無が議員立法で法令に盛り込まれたにも関わらず、役所内の通達で事実上、監査体制のなかに組み込まれない制度は、すでに昨年11月から施行されている。
改定事業法と、その省令に盛り込まれた損害賠償能力は、トラックが交通事故の加害者となるケースに限定される。同法は24条の4は「事業を適確に遂行できるために必要なもの」についての順守義務がトラック事業者にあるとし、その内容は省令(施行規則)で定めるとしている。
同法の中身を定める省令は、その3条と14条のなかで「貨物の運送に関し支払うことのある損害賠償の支払い能力」とだけ定める。交通事故の加害者になったケースのほか条文からは、積載貨物の損害を荷主に賠償するケースなども考えられるが、「法令は、あくまで事業法の範疇の賠償責任」(同課)とケースを限定して解釈しているという。
こうした法令が順守されているかを監査する役所の事務体制は、どのようになっているのか。同課は昨年8月1日、各地の運輸局の自動車交通部長や監査指導部長宛に、細部取り扱いに関する内部の通達を出している。
そのなかで損害賠償能力については、「任意保険への加入を確保すべき事業者は、貨物事業用自動車が100両以下の貨物自動車運送事業者とする」と記し、台数によって限定した記載をしている。
また、100台以下のトラック事業者が加入する保険の内容について、対人事故に関しては被害者1人につき「保険金の限度額が無制限であるもの」、対物事故に関しては1事故あたり「保険金の限度額が二百万円以上であるもの」と記載している。
これらの内容は「事業者が順守すべき事項の明確化」といった内容で事業者や関係団体などに昨夏ごろから周知、同11月から施行されている。
法令にあるのはあくまでトラック事業者が、損害賠償支払い能力があるか否かをみるとあるにも関わらず、保有台数100台を監査の区切りとした経緯について国交省貨物課は、「事業規模が大きければ支払い能力がある。支払い能力のある事業者が保険に加入するか否かは、会社の判断に任せる」とコメントした一方、100台で区切った経緯については「調査する」としている。
「大手のトラック事業者に追突されたことがあるが、担当の対応はのらりくらり。保険に加入しないのは、その会社の勝手だが、支払い額を確定させるまでのプロセスや支払いまでの期間に規制がないという側面は、損害賠償能力の有無という観点にも増して重要ではないか」。兵庫県内の小規模トラック事業者は、そう話す。
業界ではもはや有名な、大手事業者による損保無加入。保険金を保険会社に支払うよりも社内やグループ内でプールしたほうが、メリットがあり、今に始まったことではない。
しかし今回、国交省が内部通達で100台以上は賠償能力があると推定している事実は、これまでの自動車事故をめぐる大手事業者による事故処理体制を追認するものと受け取られても仕方がない。
損保業界では、事故の損害賠償が確定したときから30日以内に保険金を支払うといった約定やルールがあるという。支払いまでの期間などは、賠償責任のある側の支払い能力の有無とは別物のようでありながら、賠償を受ける被害者側から見れば「ないから払えない」と、「あるのに払わない」の区別がつかないという意味では同じようなものだ。
トラック事業者同士の事故であればこそ互いの事情も考慮しあえるが、世間一般の人を被害者にしたとき、保険に加入していないトラック事業者の存在は、奇異には映らないだろうか。「企業の社会的責任」(CSR)などを声高に叫ぶのならばなおのこと、と感じるのだが。
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そういうことか。これは知らなかった。そりゃ払わんわ
路線会社は大半そうじゃないすかね。
うちの会社は四〇〇台ありますが、まともに保険掛けると大変な額になりますので、当然、プールしてます。軽微なものを含めると、事故も年間数件は発生するので、割引は期待できませんし。賠償を渋ることは・・・、ノーコメントでお願いします!