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    荷主に言われた無理難題

    2010年5月31日

     
     
     

     不況の深刻化とともに、法令違反に抵触する行為を運送事業者に強要して利益を追求しようとする荷主の存在も増加傾向にある。理不尽とも言える荷主の要求に運送各社は対応できるのか。聞き取り調査で運送事業者の現状を探るとともに、トラボックス会員の協力も得てアンケート調査を実施。全国の運送320社から回答を得た。


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    「パレットから手積み手下ろし『地球温暖化に配慮?』」

     食品輸送をメーンに事業展開する関西の運送事業者によると、昨年から一部の大手荷主の仕事で従来までパレット輸送で運搬していた荷物について、手積み手下ろしの作業に変更されたという。パレットを一切使わない輸送について荷主側から「地球環境に配慮した配送を目指していく」との説明を受けたが、実質的には「エコの名のもとに経費削減が行われている」と指摘している。
     運転者は手作業が増え、荷物の積み下ろしに多くの時間を費やすことになり、労働時間、拘束時間が増加傾向にあるという。同社によると、パレットを使用する発荷主は着荷主に到着したパレットを回収しなければならず、通常の配送費用に加えて、パレットの回収費用が発生することになる。この回収費用を無駄な経費ととらえたようだ。
     また、別の大手荷主でもパレット輸送ではあるが、CO2削減の名目でフォークリフトを扱う従業員を削減し始め、荷物の積み下ろしの待ち時間が大幅に増えているという。同荷主では、数年前からエコ対策に本格的に乗り出しており、毎年5%のCO2削減を目標にしている。目標を達成すれば国から助成金が受け取れるため環境対策に躍起になっているという。
     運転者の疲労も増しており、対策に苦慮する運送事業者は「荷扱いの省力化のためにパレットが生み出されたのに、エコの名のもとで時代に逆行した動きが出てきている。これでは事故が増えることはあっても減ることはない」と訴えている。(大塚 仁)

    「改正下請法に抵触するも告発できない業界事情」

     「やはり運賃だね。色々あるけど最近、とくにひどいケースがあって、こちらから取引をやめさせてもらうことにした」とA運送(東京都)の社長。地元で中堅の同社は、古くからの付き合いで大口荷主でもある大手路線業者との絡みから、地元のメーカーの荷物を運んでいた。
     運賃の15%を大手路線業者に支払い、残る85%を収受する契約で動いていた。「100万円の仕事なら85万円がうちに入る仕組みだが、メーカーは『85%を基準に改定させてほしい』と言ってきた。要するにトータルで15%値引きしろということだが、そんなバカな話はない。『それなら大手路線業者に直接頼んでくれ』と話した。メーカーのやり方は改正下請法に抵触すると思うが、告発したりすると路線業者との関係にも悪影響が出るからできない。泣く泣く仕事から手を引くだけだ」。
     このメーカーは「運送契約で(路線業者の下請けとして)『補償する必要はない』と明記している商品破損などで再三、損害賠償を求めてくるようになっていた。メーカーも経営が苦しいのは分かるが法律無視も甚だしい状況だった」という。(土居忠幸)

    「空気運ぶよりは…『無茶な要求が通る現実』」

     岐阜県の事業者は積み込みを終えて出発、高速道路に乗った頃に荷主から事務所あてに電話が掛かってきた。「積み忘れたものがある。ドライバーに戻らせてほしい」。その電話では戻る際の運賃や高速代には触れなかった。担当者はその費用が運送会社持ちであると確信したが結局、負担を求めることはできなかったという。
     別の事業者はネットの求荷・求車サイトを見て嘆く。明らかに採算割れの運賃が堂々と表示されているからだ。「大型車なのに、4?車のような運賃もザラ。不況による需給バランスもあるが、問題はその料金でやってしまう事業者があることだ」。とはいえ、たとえ採算割れでも空気を運ぶよりはマシ、と考える人もまだ多い。
     「荷主から無理難題を突きつけられたことはない」と言い切る事業者はこう話す。「無理なことを平気で言ってくる客とは付き合わないのが一番。自分の経験から言うと、これは会社の大小とは関係ないと思う」。(中道幸男)

    「苦しい荷主事情に理解示すしか…」

     先代から付き合いのある荷主が、「明日からトラックを減らしてほしい」と言ってきた。毎日数十台分の仕事をもらっていたところだった。トラック4台は荷主が買い取ってくれることになり、ドライバー6人も構内作業などの仕事に就けることになったが、毎月数百万円の減収になることが決定した。
     この不況で荷主も大変なことは痛いほどわかるだけに、理解を示すしかなかったという。「大手機械メーカーなどは運送だけでなく、多角化している物流企業には真っ先に仕事を切ってくる。それなりに配慮しているのが理解できるだけにつらい」。(戸嶋晶子)

    「高品質輸送自負しても週一回の例外も」

     「物流コーディネ―ターというものがあったら、絶対にこんなことは起きないだろうに」。化成品輸送を主力とする近畿地方の事業者は、いま置かれた環境と理想との狭間でため息をついている。
     事業者は「Gマーク」も取得。輸送品質への気の配りは並以上だと自負もする。しかし、数百?離れた北陸から発生する週1回の物流だけは、同社では例外扱いとしている。昼過ぎに荷積みが完了し、午後5時までに大阪の倉庫に入荷しなければならないものだ。
     輸送する区間にもよるが、時速140?を出さなければ間に合わない。万が一のことも考え、荷主にもう少し出荷時間を早めて欲しいと願うがままならない。
     荷積みは荷主の工場から、そして入荷は倉庫会社へ。運営母体が違うから仕方ないとも言えそうだが、荷主から倉庫会社に入荷時間の延長を申し入れてもらうわけに行かないのか。諸事情があり、いまのところ解決にはいたっていない。
     輸送事業者は、「メーンの仕事を維持するためにも必要と諦めている」と話している。(西口訓生)

    「物流費カットで人員削減」雑務増えドライバーにしわ寄せ

     荷主の物流費削減が、物流事業者のコスト増につながるケースが増えている。雑貨配送を手掛ける千葉県の事業者では、当初はトラックでの輸送がメーンだったが、徐々にそれだけではなくなっていったという。
     「荷積みに行けば荷主の担当者がおり、フォークリフトでの積み込みや仕分けなど一切を、その担当者らが行っていた」が、荷主の物流費削減の中で作業員の数が減り、ついには窓口の担当者がいなくなる始末。結局、「仕分けやフォークリフトなど、荷積みのための準備もすべてドライバーがこなさなければならなくなった」と話す。増えた雑務もその対価が得られればいいが、運賃の上乗せはなく「働き損になってしまっている」という。
     また納品先でも、荷下ろし作業をドライバーがしなければならず、ドライバーの負担はどんどん増しているという。荷主あっての仕事とはいえ、「荷主との契約を維持するため、ある程度は仕方がない」と話す同社長だが、「どこかで見直さなければ要求はエスカレートするばかり。労働時間をはじめ、今のままではコンプライアンスの徹底は難しい」とこぼしている。
     一方、建設資材を輸送する埼玉県の事業者も荷主のわがままに泣かされるケースが少なくない。配送先は建設現場となるため、いつもまちまちで、現場を仕切る監督の意向が強く反映されるという。
     「すぐに持って来いといった指示にも対応しなければならないし、荷下ろしだけでなく、指定場所への仕分けも行わなければならないときも多々ある」と同社社長は話す。
     しかし、こうした要望に応えることが同社の強みになっている。「多数の同業他社がいるなかで荷主の要求に応えることは、他社との差別化を図れることにもつながる」と指摘する同社長は、「運送会社なのに、こんなことまでしなければならないのかと思うこともある。しかし、それが荷主との信頼関係の構築につながっていると考えると、無理難題とはいえないのが実情だ」と話している。(高田直樹)

    「水面下に眠る荷主批判」公取委調査は氷山の一角か

     「荷主からの無理難題? そりゃ、あるけど言えないね。それこそ、そことの取引を切る覚悟でないとね」と、近畿地方の運送事業者。多くの運送会社にとって、荷主批判はタブー。公取委が実施した「荷主と物流事業者との取引に関する実態調査報告書(平成18年)」によると、荷主からの代金引き下げ要求が「よくあった」「ときどきあった」とする事業者は31%にとどまっている。
     しかし、公取委が下請法違反事例として公表している19件(同21年・22年分)のうち物流関係は5件に上る。そのすべてが「下請代金の減額」。神奈川県のM社の場合、下請け3社に対して1783万円の減額、大阪府のK社は30社に対して3715万円。同F社の場合は、670社に対して5億1810万円を減額していた。
     「仕事があるだけマシ。切られることを考えれば、多少の要求は目をつぶる」と、前出の運送事業者。それだけに公取委の代金引き下げ要求31%は、氷山の一角である可能性が高い。それでも、20年度の下請法運用状況を見ると、勧告・警告2964件のうち運送業は308件と最多で、全体の1割を占めている。
     また、中小・零細の運送事業者にとって「荷主といっても運送事業者がほとんど。適正な運賃が支払われていても、元請け、下請け、孫請け…と流されていくうちに、ひどい運賃となっているケースも多い」。荷主とのパートナーシップを考える以前に、業界内のモラル、システムを改善する必要があるというのだ。
     物流子会社や下請け・孫請けなどの多層化など、物流業界が抱える難題は多い。解決には自助努力も当然だが、法的な整備も必要だ。(小西克弥)

    「断っても強引な値引き」原価計算いつもムダに

     景気が低迷し物量確保のために、荷主からの無理難題を聞き入れてしまう弱い立場の運送事業者。物量確保で荷主のわがままなニーズにも耐えかねているのが現状だ。
     大阪市で海コン輸送をはじめ海コンにかかる雑貨輸送を行う運送事業者では、いつも荷主の見積もり提示で無理難題をいわれている。同社の荷主は企業をはじめ乙仲という海外向け荷物を取り扱う専業者。乙仲などでコンテナの配送とコンテナから出てくる貨物を一般トラックでも配送しており、大量の物量が発生した時は毎回、他社との相見積もりが行われ、他社との比較で運賃を下げるように要求される。
     原価計算に基づいて運賃を提示しているのに、「他社より高い」と値引きを迫られる。断ると必要以上に物量を与える代わりに、他社と同等の金額まで値引きを求められるという。
     「他社に頼んでもらってもいい」と断っても口説いてくる。荷主も他社に依頼するのは不安で、使い慣れた運送事業者に安い業者と同等の金額で運ばせようと「あれこれ言ってきては結局、大幅な値下げで輸送させられることになってしまう」という。同社社長は「安いところがあれば運んでもらえばいいというのに、今後の付き合いや物量確保を理由に値下げを要求してくる。なんのための見積もり提示なのか」と話している。(佐藤弘行)

    「取引先吸収され迅速な対応できず」

     都内で運送業を営むA社は主に食料品を扱う。数年前、大口取引先のスーパーが別の大手スーパーに吸収され、A社はその大手スーパーと取引していた運送B社の下請けになった。そのため荷主のスーパーから直接、理不尽なことを言われる機会は減った。
     しかし、直接やり取りできないことで問題も発生している。例えば、そのスーパーからB社に「商品が完売したから、すぐに運んで持ってきて欲しい」と急に連絡があった場合、B社は下請けのA社にそのことを伝える。この時点でA社に空車がなくても、一定の時間さえあればトラックの都合がつくことがある。
     ところがB社を介しているため、その事情が荷主まで伝わってから次の指示が来るまで時間が掛かる。そのため迅速に対応できず、また荷主に誤ったニュアンスで伝わってしまうことでトラブルもあるという。
     社長は「荷主との間に同業者がいると無理難題を言われることは少なくて済むが、直接やり取りした方が仕事はスムーズにいく」と語る。(岩本浩太郎)

    品質に自信、言いなりにならない「無理難題を絆に転換」

     荷主から理不尽な無理難題を突きつけられたことがあるか──。神奈川県で業種の違う運送3社に聞いてみたが、答えは「無理難題などない」だった。無理難題を逆転させ、荷主との強い絆に変えていた。
     重量物輸送を手がける運送事業者は「たとえば、コンプライアンスが重視されるのは時代要請であって、荷主が勝手に要求していることではない。自分の会社を守るためにも、取引する運送会社にコンプライアンスを求めるのは当然」と言い切る。 「運送業界は被害者意識になりやすいと思う。荷主からの要求に、できない理由は言わないのがわが社の流儀」と社長。
     低コストで高品質のサービスが実現できれば、それは同社のノウハウになる。だが、あまりにも理不尽な場合には仕事を断ることもある。引き揚げるのも経営戦略だ。「無理難題を言ってきた、相手が強い、と泣き言をいうのはプロではない。本当にこの業界で生き残ろうと思うなら、Gマークとグリーン経営認証取得くらいは当たり前だ」と話す。
     化学品輸送を展開する別の運送会社社長も「昔は荷主の物流センター長が、電卓をはじいて無茶な運賃値下げを言ってきたが、今では無理難題は聞いたことがない」と話す。同社の場合、メーカーの直請けでやっていた仕事が、途中で物流子会社が間に入ってきたために、下請けになってしまった経緯がある。
     当初は不満に感じたが、結果的にはそのおかげで、荷主から物流現場を無視したような無理難題がなくなったという。
     食品輸送を手がける事業者は、無理難題こそが業容拡大につながっている。「仕事はほとんど荷主からの相談で始まる」と同社社長。言いなりになるのではなく、燃料価格高騰の時にはサーチャージの交渉をして、最低のコストを割るような荷主からは撤退している。
     だが、荷主から頼まれたことは、まずどうすればできるかを検討し、応えられる体制を作ってきた。結果的に、物量が減少する時代でも荷主が増えた。無理難題に応えられる会社だから選ばれたのだ。同社では「当社の運賃は高いが、使ってもらえば品質面、安全面、環境面で荷主には絶対に迷惑がかからない」と言い切る。社長が営業所を見回るだけではチェックができないので、あえて適正化実施機関に頼んで、定期的に不法行為がないかを確認してもらっているという。(千葉由之)

    「運賃安く、時間指定厳しく」

     運賃の値下げや時間指定など、運送業界を取り巻く環境は依然として厳しい。それに加えて荷主という優位的な立場から、仕事を依頼するケースもあるようで、大阪府東大阪市の運送会社社長は「運賃が安く厳しい時間指定の仕事を頼まれ、断ることができず泣き寝入りしている」と頭を抱えている。
     同社は主に朝イチの輸送が多く、夜積みで対応しているが、「急な仕事を依頼され時間が重なることで通常の輸送に支障をきたしている。このままでは、この仕事自体がなくなってしまう」と危惧する。
     また、同摂津市の運送会社社長は「運賃に限界がきている。これ以上に下がると仕事を断るしかない」とし、「荷主側も厳しいのは理解しているが、末端で働いている我々のことも考えてほしい」と訴える。「荷主と話し合いの場をつくり、運賃の相談や自社の現状を理解してもらえる環境を築きたい」という。
     一方で、他の運送事業者と差異化に取り組む大阪市都島区の運送会社は、補助金をうまく活用し環境保全に貢献できる体制を築きあげ、荷主に提供する強みを創り出し運賃アップにつなげている。また、特殊車両などを生かした事業展開で、道を切り開き、荷主とのパートナーシップを築いている運送事業者もある。(中村優希)

    「あつかましい荷主」

     「うちの主要な『荷主』は同業者の大手。仕事をもらっている立場でエラそうなことをいえるわけがない。ただ、とにかく運賃は安すぎる。下請けの立場だと仕事を選り好みできるわけもなく、結局は100かゼロか。仮に『これはイヤ』『あれはムリ』などと不満を口にしようものなら、すべての仕事が消えてしまう」(岡山市の運送会社)
     「構内で普通に使わせてもらっていたフォークリフトが、取引先の責任者が交代した途端、『燃料代を運賃から引かせてもらう』と通告。使っている燃料は微々たる量だし、積み込み作業自体がサービスのようなもの。これまでも問題にされていないことを訴えたところ、『フォークリフトの使用禁止』にエスカレートしてしまった。仕方がないから自分の会社のフォークを持ち込み、燃料も自前で用意して使用していたが後日ビックリ。取引先の作業員がウチのフォークを平然と使っていた。『燃料など微々たる量』と口にした手前、細かいこともいいづらく、我慢の日々だ」(広島市の運送会社)

     
     
     
     
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