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    どうなる愛ト年金基金 掛金引き上げもAIJ事件で帳消し

    2012年7月23日

     
     
     

    kaikan_0723.jpg 愛知県トラック事業厚生年金基金(吉野雅山理事長)が存廃の狭間で揺れている。積み立て不足解消を目的に4月から掛金を1.0%引き上げたものの、AIJ事件によるおよそ90億円の資産消失で、それがほぼ帳消しとなってしまった。同基金では現在、さらなる掛金の上乗せを検討しているが、一方でAIJ問題に関して当時の運用執行者の責任を問う声は全く出ていないという。負担のみ増える可能性が高い加入事業所からは、基金運営を疑問視する声が日増しに高まっている。(加藤 崇)



     同基金は平成16年3月の理事会でAIJ投資顧問を運用委託機関に採用、同4月から資金15億円で運用を開始した。その後、同22年までに4回の追加投資と1回の減額を経て、今年1月末時点での運用額は90億1905万円(投資元本56億653万円、配当再投資額34億1252万円)で、全資産の11.7%まで増加。全国のトラック年金基金の中でもトップの金額だ。

     同基金ではおよそ148億円にのぼる最低責任準備金不足により、昨年12月に厚労省から「指定基金」に指定され、その解消のため4月から掛金を1%上乗せしたばかり。これは、例えば月収30万円のドライバーの場合で月額3000円の事業主の負担増となる計算。しかし今回のAIJ事件による損失で、この1%の上乗せ分はほぼ帳消しとなり、引き続き積み立て不足が残る状態となった。

     すでに給付額の減額もできない水準にあることから、今後、事業主にさらなる負担を強いる可能性が高い。7月に開いた理事会では、来年4月からの掛金を1%、1.2%、1.4%上乗せした場合のシミュレーションを行っており、現行のままでは「積み立て比率の改善は困難となり、運用で勝負するしか選択肢はなくなる」と、将来展望を悲観する。

     こうした損失穴埋めのために再度、掛金が上げられる事態に加入事業主から不満の声が出始めている。名古屋市内のある事業主は現在、従業員29人分、毎月約55万円を基金に納めている。「すぐにでも脱退したいが、そのために1人あたり200万円、計約6000万円を払わなければならない。借りてもいない借金がどんどん増えていくような感覚で、居ても地獄・抜けても地獄の状態」と打ち明ける。別の事業主は「90億円もの損失を出せば企業なら責任者はクビだ。勝手に負担だけ増やされるのでは納得できない」と憤る。

     巨額な損失を出すに至った原因および責任を追及する声は、不思議なほど出ていない。同基金の加藤修治常務理事に聞くと「まず責任があるとすればAIJを認可した金融庁。また、90億円といっても当基金の全資産の1割に過ぎず、その損失責任を問うのは当時努力していた役員に対して失礼なこと。株が下がって責められているようなものだ」と断じる。ただ、AIJの被害に遭わなかった基金も多数存在する中で、すべてを金融庁の責任とするのは無理があるようにも思われる。

     もっとも、当時の運用の執行責任者は他ならぬ同常務で、一部週刊誌では実名こそ出していないものの、明らかに同基金と分かるよう具体的な損失金額を挙げたうえで、社保庁OBの同常務がAIJから名古屋・錦の高級ロシアンパブでたびたび接待を受けていたと報じ、その蜜月関係を問題視している。本人に事実確認をすると「記事は事実無根で大変迷惑している」と憤るものの、「人の噂も75日。事を荒立てるようなことはしない」と、週刊誌を訴えることはしないという。

     同基金のように、同業・同一地域の企業でつくる「総合型」と呼ばれる基金の常務理事は、厚労省や地方自治体からの天下りが多く、AIJと契約していた基金の多くがこの総合型。年金業務に詳しくても証券運用は素人が多いという。中部地方のある社労士は「天下りで腰掛的な立場上、責任感に乏しくなりやすい」と分析。数十年前にトラック年金基金の創設に携わった、あるト協職員は「当時、監督官庁だった県は『あなたたちが儲かる組織を作ってあげるから加入員5000人を集めなさい』と露骨に上から目線だった。また、常務理事の報酬額も現職の県職員の肩を叩くのだから最低でも800万円は必要という要求があり、これら条件を満たさなければ認可しないと言われた。基金は役人の天下り先の受け皿的な意味合いが大きかったのだろう」と打ち明ける。事業主が支払う年金基金掛金の中には年金基金の原資となる「基本標準掛金」のほか、常務理事の報酬や事務所経費などを賄う「事務費掛金」という項目がある。この事務費掛金の分子をほんのわずか操作するだけで、要求する役員報酬額を簡単に捻出できてしまうのだ。「年金は扱う額が莫大かつ一定時点での損益にはこだわらない性質なので数字に鈍感になってしまう。当事者の責任意識がなくなるのは、ある意味で当然かもしれない」と同職員。

     現時点で同基金が代行を返上し基金を解散するという選択肢はあるのか。加藤常務は「まずないだろう」と述べる。代行返上をすれば積み立て不足金を加盟各社が負担しなければならず、中小・零細運送事業者には致命傷となる場合も出てくる。また、連帯責任という性質から1社の倒産が連鎖倒産へと広がる危険性もあるからだ。それでも、この先のさらなる負担増を避けるため解散したほうがいいという声も多く、今後、連帯債務の見直しなど国から緩和措置が取られれば解散の可能性もなくはないという。

     現在、組織内部では大幅なコスト削減が図られようとしている。年額1万円で計算される代議員や理事の報償金を廃止するほか、旅費交通費の見直しも行う。会議の出席で役員に支給される交通費5000円を辞退する動きもある。また、同26年4月をメドに組織運営を現在の?A型から、業務の一部をアウトソーシングしコスト負担を抑える?型へ移行する方針も固めた。

     コスト削減の姿勢を示しながら、加入事業主が納得する方向性を打ち出せるかどうか。執行部の動きが注目される。

     
     
     
     
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