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    市場の公共性「安全」と衝突 ?標準運賃?姿消し10年

    2014年9月22日

     
     
     

    truck_0922.jpg トラック運送取引の現場から、いわゆる「標準運賃」が法的に姿を消して10年以上が経った。それ以前から業界関係者には「標準運賃なんてあってもなくても一緒」との見方もあったのは事実だが、今となっては「何の規範もない現在とはやはり違っていた」という声が多い。底なし沼のような矛盾ではあるが、一定の規範として機能していたのは事実だったのだろう。以前を知る年配事業者はもちろん、若年の事業者からも「運賃に底のない市場では、やる気よりも疲労感が、いつの日か先行してしまう」と話す向きも。「標準運賃」という規範を求める行為は、市場の公正性という価値観と常に正面衝突してしまうものなのか。



     「オヤジの代からずっと貼ってあった。意味? さあ、なんやろうね」。祖父の代から神戸市内で運送業を営む40歳代の運送事業者は、玄関入り口のカウンターに貼りつけた一覧表に目を遣った。一般貨物自動車運送事業貸切運賃料金――。横に小さく「平成11年3月26日」の日付も見える。この日、国交省(当時は運輸省)が各地方に通達し、同じ日付で各運輸局が「原価計算の添付が省略できる範囲」を示したものだ。この事業者に、この用紙を送付したのは兵庫県トラック協会。近畿運輸局公示の「標準運賃」は距離制の場合、例えば2?車で150??ならば「上限3万6540円、下限2万4360円」とある。

     この40代の経営者。もちろん、この文字通りの意味は分かるが、「実勢運賃ではこれを大きく割っているものも多くある」ことから、一体、何のために用紙を貼り続けているのか分からないというのだ。今般、大阪市港湾局は、同局サイトに掲示した貸切運賃料金表の掲載を辞めることも含めて検討に入った。港湾法が港務局(港湾管理者)に公表を義務付ける「港湾の利用に必要な役務及び施設に関する所定の料金を示す最新の料率表」にそぐわないのではないかと見ているからだ。15年前に定められた貸切運賃料金表。しかも、平成15年には貸切運賃表を近畿運輸局自らが廃止し、それ以降、同様のものは出されていない。

     大阪市港湾局は、港湾の利用のためには陸上のトラック輸送料金も必要と判断し、少なくとも10年以上はサイトに掲載を続けていた。大阪市以外のほかの国内主要港湾でも同様の措置を取っている。同局は、「トラック運賃を掲載せよとは港湾法には書かれていない」とし、トラック料金表の掲載そのものを見送る意向だ。

     このように、国交省が公示した標準運賃表は、目的のはっきりしないまま独り歩きする存在でもある。国交省は平成24年、民間有識者を集めた作業部会で標準運賃の再設定について議論している(最低車両台数・適正運賃収受ワーキンググループ)。報告書には、「(旧認可運賃のような形態に)国が関与することについては、独占禁止法との関係を踏まえ、慎重な対応が求められる」とし、再設定には否定的な考えで落ち着いたとしている。「独占禁止法の除外規定を公正取引委員会とすり合わせしさえすれば、国が運賃を以前のような形で設定することは可能」(公正取引委員会経済取引指導官)ではあるが、自らそれを放棄する判断とも取れる。このことと関係して関係者からは、「平成8年に地方運輸局が公示した標準運賃をめぐり、公取委からト協が勧告を受けた。何らかの横やりが公取委から国交省にも入り、当時の規制緩和の流れとも相まって標準運賃を公示しなくなったのではないか」と話す。

     国交省貨物課はこうした点について「そのころに公正取引委員会からそういう指摘があったという記録は地方運輸局も含めてない」と本紙に回答した。国交省に任せてはおられないとして、事業者グループからも標準運賃的なものの創設提案が相次ぐ。近畿地方の事業者は、法的な諸条件を満たすために絶対的に必要な原価を積み上げて「最低限必要な運賃を提示する」趣旨から、「安全運賃」といった言葉を仲間に広げていこうと活動中だ。事業者は、「例えば、ウチのような2?車なら、原価の積み上げで走行1?当たり最低170円は必要」と話す。150?なら運賃額は2万5500円になる計算で、先述した運輸局公示の「2万4360円」とも近い数字だ。

     ではこうした「安全運賃」のような案に、独禁法はどのようなブロック役に回るのか。先の経済取引指導官は、「事業者が収受する運賃の一部を構成するものとはいえ、そのグループの構成員が申し合わせると独禁法に抵触すると考える」と述べ、独禁法8条の規定を持ち出す。民間事業者がいかに「安全」という価値観をぶつけても「市場の公正性」を凌駕できる論理はなかなか創出できない、といった事例だ。ある事業者は、「だからやはり、法律で運賃の下限を作る。政治や立法に結び付けていくしかない」と感想を漏らしている。

     
     
     
     
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