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M&A成功の秘訣「トップの人望・労働環境変化」従業員の不安
2014年10月17日
事業継承問題の解消や事業の発展・拡大を目的に、さまざまな業界で注目されるM&A。買収によるスピーディな事業拡大を図る事業者や、売却で事業継続が可能になったケースがある一方で、交渉の難しさや、その後の運営の難しさを指摘する声も根強い。M&Aを成功に導くために必要なものは何か。同業他社を買収した関東のある事業者は、「買収した会社の従業員に、まずは安心感を与えること」とポイントを指摘する。
今年7月に事業譲受を発表した八潮運輸(宮地宙社長、埼玉県八潮市)は、藤川運輸(東京都葛飾区、60台規模)の運輸部門を買い取った。面識のあった担当者に藤川太記社長(当時)から直接譲渡の申し出があり商談が進んだという。打診された池田広法取締役営業部長は、「新たな分野を取り込むチャンスと捉え、商談を進めた」という。金銭的な面を含めた話し合いが続く中でも、「藤川社長の(譲渡の)意志は終始一貫していた」といい、「ほかに声をかけることもなく、うちだけと決めてくれていたことがスムーズな引き継ぎにつながった」と話す。
昨年11月から商談を開始し、年が明けた翌年1月には、現場に同社社員を管理者として配置していくなど、徐々に下準備を進めていった。その結果、混乱なくドライバーや荷主の理解を得られたというが、その過程で池田取締役が、「藤川社長の、当社へ譲渡するという気持ちにぶれがなかったことが大きい」と指摘するように、譲渡する側のトップの姿勢が、同社のスムーズな譲受につながったという。売却される側のドライバーは労働環境が変わるだけに、精神的に不安定になりやすい。こうした状況に対し藤川社長自らが、ドライバーらに体制やサービスに変更がないことを丁寧に説き、さらに新たな会社の顧問に就任することを説明したことで、ドライバーらが安心し、混乱なくスムーズに事が運んだという。その上で、同取締役は、「事業譲渡・譲受の成功への第一歩は、売買する経営トップの意識、姿勢ではないか」と分析する。
一方で、前社長の人望があるが故に、M&A後の体制づくりに苦心したという事業者もいる。関東の事業者は、県外の中堅運送グループに統合された。もともと現場の管理は社員たちに任されていた同社には、他から新たな管理者が来ることもなく、さらに前社長も役員として残るなど、「代表者が変わるだけで、現場はほとんど変わりなく仕事ができるという状況だった」というが、半年間で10人近くのドライバーが次々と会社を去っていった。
当時から運営を任されていた管理者は、「ある日突然、大事な話があると前社長に呼ばれたのが始まり」と、突然のM&A発表を振り返る。前社長に呼ばれて集まった管理者らは、社長から「会社を売ることになった」と突然切り出された。皆一様に驚いたが、「社長の意志であり、会社にも残ってくれる」と理解したという。しかし、管理者には理解が浸透したが、現場のドライバーには十分に浸透していなかった。同社には、前社長を慕っていたドライバーも多く、「彼らには、前社長の意向だということが充分伝わっていなかったのかもしれない」と振り返る。その結果、売却と同時に10人近くのドライバーが辞めていった。
M&Aは事業拡大や事業の継続を行う上で有効な手段だといえるが、同時にナーバスなことでもある。とりわけ、売却される側の従業員にとっては、雇用主が変わるという大きな環境変化だけに、十分な配慮が必要だ。M&Aにより事業拡大を図ってきた中堅物流会社経営者は、「M&Aは単なる事業の売買ではなく、人の心をやりとりするもの」とし、「時間をかけ、?ウチの会社?と思ってもらうまで成功とはいえない」と話している。
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