-
トピックス
健康診断で「要再検査」 就業拒否できるか?
2017年7月21日
「ドライバーからの訴訟リスクがあり、簡単に従業員を解雇できない」と話すのは、愛知県の運送事業者。人手不足が慢性化している物流業界だが、それでもすべての人材が事業者の目にかなう訳ではない。しかし、不当解雇として提訴されるリスクから、解雇をできないケースも少なくない。今回は入社後の健康診断で異常の所見があったものの解雇させられずにいた結果、交通事故を発生させた事案について調査した。
A社には以前、雇用後の健康診断で狭心症と報告されたドライバーBさんが在籍していた。異常の所見があったと知らされたA社社長は、Bさんに精密検査に行くよう指示。しかし、Bさんは精密検査に行かなかった。会社としても医師から就労不可と断定されていないことから解雇できなかった。結果、Bさんは狭心症の発作から事故を起こして亡くなってしまった。A社長が荷主(C社)に対し、長時間労働の是正を何度も行っていた最中の出来事だった。点呼時には会社関係者が、自宅を出る時も家族がBさんの元気な姿を見ており、驚きを隠せなかったという。A社長は「精密検査を強制できなかった。しかし、我が社には配置転換可能な倉庫や事務業務もなく、また(労働争議など)トラブルを避けるため解雇もできなかったので、ドライバーをやってもらうほかなかった」と話す。異常が見つかった際の対応について、管轄の労基署へ質問すると、「産業医や産業医センターと相談し、適切な業務の割り振りをお願いしたい」との回答があった。
また、厚生労働省監督課に異常の所見発見後の精密検査を強制できないか質問すると、「健康診断後の再検査には、法的拘束力はない。就労規則に『健康状態の確認ができない場合は乗車できない』などの記述があれば、乗車は会社から拒否できる」としている。弁護士法人あおば法律事務所(名古屋市中区)の上田敏喜弁護士も解雇の可否について、「あくまで一般論」とし、「病気や事故によって就労が長期に渡り困難ないし不可能となった場合、普通解雇が認められるケースがある。しかし、そのハードルは高く、簡単に解雇はできない」という。A社の件についても「狭心症と診断を受けたものの、医師から就労不可と判断されておらず、Bさんも現実にドライバーとして業務従事できる状態だったとすると就労不可とできず、従って解雇もできない」と分析している。
また、仮に医師から運転業務以外なら可能とされた場合については、「労働契約で職種や職務内容が限定されていない場合であれば、特別な教育や就労上の配慮をしなくても配属される現実的可能性がある業務があるか確認し、担当可能な業務がある場合には職種・職務を変更して復職を認めるべきとなる。使用者側において対応できる余力があり、配慮が容易に可能であれば復職を認めた方がいいのではないか」と指摘する。
しかし、職種や職務内容が限定されている場合は「復職を拒否できる」と指摘している。なお、「就業規則などにおいて他の職種への変更が予定されていたり、特別な教育や就業上の配慮をしなくても担当可能な業務があるのであれば、職種・職務内容を変更して復職を認めた方が無難」と話している。Bさん遺族へ対して賠償責任を負う可能性は「労働契約法5条により経営者は、労働者に対し安全配慮義務を負うものとされている。直接の使用者であるA社が、過重労働を原因として発症した場合の損害について賠償責任を負う可能性はある」としている。元請け(C社)にも賠償責任が発生する可能性については「直接の労働契約関係のない者との間においても、一定の場合(元請けが下請けの従業員に対し直接、業務を指導監督している場合など)においては安全配慮義務が認められることがあり、過重労働が原因の場合には下請け企業(A社)の責任と共に、Bさんの健康に配慮せず、長時間労働させた元請け(C社)に損害賠償責任が認められる余地もある」と分析している。
元請けにも安全配慮義務が認められた裁判例を聞くと、上田弁護士は「騒音を伴う船舶の建造作業などに従事していて騒音性難聴に罹患したケースがある」と答えてくれた。上田弁護士は今回のようなケースへの対策について、「A社は長時間労働をさせるべきではなかった。裁判所で争われた場合、A社がC社による長時間労働を放置していたと評価される可能性が高い。A社はC社に対し、Bさんの同意の上で、Bさんの狭心症に関する情報を提供し、長時間労働を是正すべきであったのではないか。C社の責任が追及された場合、Bさんの狭心症に関する情報を把握していたかどうかがポイント」と指摘する。
関連記事
-
-
-
-
「トピックス」の 月別記事一覧
-
「トピックス」の新着記事
-
物流メルマガ